喜劇の手法 笑いのしくみを探る 喜志哲雄
- 作者: 喜志哲雄
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 新書
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この本はシェークスピアなどの劇がなぜ喜劇になるのか、何がおもしろさを与えているのかを具体的な例を用いて解説した本です。
まず抑えておきたいのは、喜劇はキャラクターを客観視することから生じるということです。この本ではチャップリンを例に挙げていますが、あのチャップリンの映画って自分がチャップリンだったらとても笑えないような厳しい状況におかれてます。笑いを起こす滑稽さというのは、他者の行動に対して感じることで自分の行動に対して感じることではありません。自分の行動が笑える場合には自分を客観視した上で笑っているのです。
TRPGの面白さの一つにキャラクターへの没入感を挙げることは多いのですが、逆にキャラクターを客観視、他人視することの楽しみ、面白みについてはあまり語られてないように思いますので、考えていきたいところです。
もう少し本書の内容を紹介しましょう。目次では以下のような項目がみてとれます。
変装、一人二役、嘘、変身、双生児、偶然の一致、反復、循環、逆転、誤解、身代わり、自縄自縛、誤算、傍白、アイロニー、沈黙と間、既知合戦、スラップスティック、、バーレスク、パスティーシュ、劇中劇、夢、ハッピーエンディング。
この中でわかりやすいのは変装でしょうか。TRPGでも、他の人の振りをして敵をだますシーンが面白いのは分かってもらえますよね。
でも実は変装というのは”変装をしていることを知っている立場の人間”しか楽しくないことに注意してください。だまされるほうの立場の人は変装なんて楽しくないのです。こうした喜劇を作る仕組みで重要なのは、”劇中の人間が知らないことを観客が知っていること”なんですね。
ここまで言うとTRPGへの応用の話も見えてくるのではないでしょうか。TRPGでも今回予告などでプレイヤーキャラクターは知らない、プレイヤーだけに渡される情報があります。そうして”今は平和そうにしているキャラクターが近い未来に厄介なことに巻き込まれる”こうした期待があるからこそ、何もない日常のシーンを楽しむことができるのではないでしょうか。
逆に没入感を与えたいならばはなるべくプレイヤーキャラクターとプレイヤーへ与える情報を一緒にするべきでしょう。喜劇の手法というのは没入感を与える方向とは逆方向のものとして考えるとすっきりします。
本書で紹介されている方法はそのままでTRPGにも応用可能です。非常に参考になる本で面白かったです。