重力ピエロ 伊坂幸太郎

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

伊坂幸太郎の三冊目です。
僕は刊行順に読んでいますので、僕が読む伊坂幸太郎の著作としても3冊目*1にあたります。僕は1作目2作目の感想では村上春樹っぽいという感想を抱いていましたが、今回はぜんぜん感じませんでしたね。あとがきの解説にもあったように主人公がけっこう普通の人だからでしょうか。


今回の物語の仕掛けはラッシュライフほどではないですね。それでもいろいろ伏線が多くて「…そういえば…あそこでああいってたなぁ」ってのが多いです。細かいことも確認しながら読み進めていくといいと思いますよ。


どうでもいいことなんですが、作中で使われるホモ・サピエンスという言い方がどうも気になりました。脊索動物門ほ乳綱サル目ヒト科の学名として生物学的な意味で使われていて、例えばクロマニヨン人ホモサピエンスだがネアンデルタール人はそうでないという調子です。
生物学的には分かるんですけど、僕はどちらかというと哲学的な意味の「知恵のある人」の意味に慣れているせいで違和感がありました。つまり、人間を特徴づける要素は何かという議論でそれは叡智(サピエンス)であるという人もいれば、環境を変える能力(ファーベル)という意見もあり、いっそ遊び(ルーデンス)なんじゃないかという話もある。どこに注目するのかというときに、特に人間の理性的な側面を強調するときに使われるホモサピエンスという使い方に慣れ親しんでいたせいで、生物学上、クロマニヨン人ホモサピエンスという言い方に少々違和感があったのでした。まぁどうでもいいですね。


この作品では主人公は遺伝子検査の会社に勤めており、よく遺伝子の話がでてきます。僕も遺伝子の話は好きなので雑学はよく知っていて、ここに書いてあることはだいたい知っていましたね。テロメアが寿命を決めるなんて話も、本の発売当時には話題だったかもしれませんが今となっては、すごく一般的な知識になっていると思います。それだけ遺伝子というのはよく着目されていて、専門的な知識がすぐに一般化するんだろうなぁと感心しました。


重力ピエロはよくまとまっている作品でおもしろく読めるんですけどラッシュライフほど突き抜けた興奮はなかったなぁという印象でした。それでも読みやすいので、伊坂幸太郎を勧めるときにはよく重力ピエロからがいいって言われるらしいですね。まぁとっつきやすい、読みやすい本というのは、あんまりとがってない本なので僕が評価するときには実際よりちょっと控えめになってしまうようです。でもおもしろい本ですよ。伊坂幸太郎はすごく言葉にこだわっていて、言葉遊びが好きです。いっぽ間違えると駄洒落になるんですがならないところが伊坂幸太郎のいいところだと思います。