ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ ジャックヨーヴィル

ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ (HJ文庫G)

ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ (HJ文庫G)

吸血鬼の少女に魅了され、ページをめくる手が止められなくなる傑作。

本小説はTRPGウォーハンマーの世界観の上に書かれた小説でTRPG的な興味が半分、大傑作であるという噂半分で読み始めました。噂といいますのは実はこのドラッケンフェルズは1992年に安田均, 笠井道子により一度翻訳されていまして、そのときの評価を聞くに間違いの起こりようのない傑作なんですよね*1

本書でまず僕を魅了したのは600歳を超える吸血鬼ジュヌヴィエーヴです。吸血鬼は吸血鬼になったときから肉体の年齢はとらないそうなので外見的には12歳16歳の少女という非常に萌えざるを得ない設定です。しかも、その性格がまた清廉といいますか、すがすがしいといいますか…600歳という年齢を感じさせるそぶりもあるのですが、彼女の怒り方、悲しみ方、喜び方はストレートで共感せずにはいられないんですよね。
ウォーハンマーTRPGはダークファンタジーを謳っていますので、けっこう社会情勢もひどいもんだし、人間が疑りあいながら生きています。そのような世界観と人間のあり方の中では、彼女のような感性が際立って清く感じられるんです。

もう彼女に惹かれすぎて、ジュヌヴィエーヴが出てこない場面では、ジュネ様まだか〜と待ち遠しかったりしましたが、もちろんジュネ様以外の登場人物たちも生き生きと描かれていて引き込まれるものがあります。
本編を読んでいるときには夢中で全然気づかず、あとがきを読んでからやっと気づいたのですが、本書ではよく映画的とか評されるカットバックの手法が効果的に用いられています。要するに、幕ごとに1人称の主要登場人物を変えて、次々と違う登場人物にスポットライトを当てていくような手法です*2

このようなことからも明らかなように、非常に構成が見事です。RPG的というよりは小説としての企みに満ちています。TRPGと関係が深いからといって冒険小説みたいなものを想定していると度肝を抜かれますよ。

噂に違わぬ名作でした。ちょっと普通のライトノベルよりは読みにくいかなぁと思いますが、1.5冊分ぐらいを読むつもりで望むといいと思います。2冊読む覚悟はいらないと思います。オススメですよ。

*1:ドラッケンフェルズ―ウォーハンマー・ノベル (角川文庫)

*2:伊坂幸太郎なんかも、この手法を高く評価されている作家ですね。もちろん今となってはかなり定着した手法なので他にもこの手法が得意な作家はたくさんいると思いますが。