グラスホッパー  伊坂幸太郎

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

久しぶりに伊坂幸太郎を読んでみようと思いました。昔は文庫になる度に追っていたんですが、最近ちょっと追いきれてないですね。

伊坂幸太郎の書く群像劇は、最初バラバラだった登場人物の運命が最後にからみああうところが綺麗ですよね。ラッシュライフなんかを読むと特にそう思います。

ところでこの伊坂さん、女性にも人気ということですけど、それは彼のお話がどこか善意に基いているからなんじゃないかと思いました。あとがきを読むとこの作品では伊坂はハードボイルドを目指して、なるべくそっけない客観的な記述を試みているのではないかと述べられていて、そこはたしかにそうかもしれません。伊坂の作品にしてはけっこう人が死にますし、そのあたりは善意に基いてるといいにくいのですが、ほんとに醜い場面とかどす黒いところはぼかされていて、悪意しかない人間の内面には触れないように書かれています。陽気なギャングが世界をまわすは実は漫画版しか読んだことがないのですが、悪党にも悪党に美学があって、けっこう魅力的ですよね。ほんとにしょーもない悪党は、でてきたとしてもあんまり記述されないため、不快に思うところがないんですね。このあたりのマイルドさが一般読者を獲得しやすさに繋がっているんじゃないかと思いました。

さて、本作の出来ですが、僕はどうしてもラッシュライフの感動が忘れられず、ラッシュライフに比べるといまいちだなぁという感想をつけてしまいます。それでも十分おもしろいのはおもしろいのですが。