子供たち怒る怒る怒る 佐藤友哉
- 作者: 佐藤友哉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/05/28
- メディア: 単行本
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ファウストも奈須きのこや竜騎士07の伝奇のほうはともかく、佐藤友哉や滝本竜彦の”自意識もの”はちょっと僕の問題意識と合わなくなってきてましたしね。
しかし、小説とか物語とかを調べている最中、ふとしたことから1000の小説とバックベアードが目に留まり、その関連で本作も見つけたという経緯です。懐かしいの早速購入してみました。そういえばいつのまにかフリッカー式が文庫になっていたんですね。おめでとう*2!しかも結婚してたんだ…。いろいろ驚きだなぁ*3。
さて、本書は6つの話を含む短編集です。表題の子供たち怒る怒る怒るだけ120ページありまして、他の作品は30ページほどという構成になっています。
ひさしぶりすぎて佐藤友哉 をどう読んでいいのかわからなくなっていましたが、子供たち怒る怒る怒るはなかなか良かったと思いました。
佐藤友哉の今までの作品は私小説的で、彼のとまどいとかずれとか祈りとかそういったものが、滑稽な話の極端な状況で現れてくるところに良さがあるという印象でした。まぁこれも昔のことを思い出して書いているので思い出が美化されてるかもしれないんですが…。ただ、本作もそういう読みをするのがおもしろいのか、それとも著者の書き方も変化して新しい要素を出してきているのか…いまいち判別がつかないままだらだらと読み進めてしまいましたね。
まとめ
各話の感想は後にして、総評をまとめておきましょう。おにいちゃんと妹、死体とか人形とか人が思いを投影するもの、子供の困難、どうしょうもない状況。そういった佐藤友哉が何度も何度も考え続けているテーマが盛り込まれた、著者らしい短編集です。佐藤友哉の今までの作品を読んでいるか読んでいないかでどうしても読みに差がでてきてしまう気がするので佐藤友哉の入門書には向かない気がしますが、短編集で読みやすいので手にとってみるのもいいかもしれませんね。
以下それぞれの作品について簡単に感想を述べていきます。ネタバレなので一応隠しておきましょう。
大洪水の小さな家
2兄弟で完結している”、これは今後も何度となくでてくるテーマです。これは何を言わんとしてるんでしょうね…。完結しているってことは、コミュニケーションをして考えなどを補いあう必要がないってことです。自己完結している人間を描くことでコミュニケーション不全な人を描いているって感じでしょうか。
ここでコミュニケーションは善、自己完結は悪!っていう普通な価値観を持ってくると話がつまらなくなってしまいます。登場人物は”自己完結の幸福感を肯定”するのですが、読者は”なんか間違ってるなぁという感じ”をうけます。この微妙な読後感は佐藤友哉らしいでしょう。
死体と、
これはなかなかおもしろいですね。一つの死体をめぐってつぎつぎと人が死んでいきます。死体っていうのは人の思いを投影しやすいんでしょうね。そのあたりの生きている人の勝手な思い込みと馬鹿騒ぎがうまく書かれていると思いました。
慾望
これは、文学的な読みとは全く違うところで僕の興味を引いています。人を殺すのに理由がいるのか?みたいなとことをテーマとしていると思いますが、僕は人間に自由意志はないけど自由否定はあるっていうあの話*4なかなかもっともらしいと思っているんですよね。人を殺したくなるのはコーヒー飲みたくなるのと同じ程度の現象。ただし、殺しちゃまずかろうという倫理観がちゃんと働いているか、そこが麻痺しているかそれだけの問題のような気がしています。
子供達怒る怒る怒る
どうしょうもない状況を抱えた子供達の決意の話だと思いました。佐藤友哉がサリンジャー好きなことを知っているものとしては、どうしてもライ麦畑でつかまえてを思い浮かべます。今回は人に手を差し伸べるってところより、実際に行動を起こすために必要な怒りの感情に主眼が置かれていて、これはそういう視点からはみるとなかなかいい話だと思いました。
ただ、これをサリンジャーとかそんなことは知らず、ただ読んだだけだったら、辻仁成みたいな暴力と少年の成長の話かなぁという感想を抱いたかもしれません。あんまり読者側で行間を埋めすぎる読み方が必要な場合は読者のバックグラウンドで作品の感想が大きく揺れうごいてしまいます。そういう作品は”傑作”ではないんじゃないでしょうか。僕はおもしろいと思いましたけどね。
生まれてきてくれてありがとう
人形に好奇心、嗜虐心などを抱いてしまう少年の話。そしてそんな自分をごまかしたりしながらも最後は人形に救われる。ちょっと後ろ暗い感情を持った少年が主人公ですが、一方そんな自分を変だと思ったり前向きだったりするので、わりと読後感はいいですね。ひどく扱ってきた人形に励まされるっていうのは、男の子的にはいい話だけど、ひどく勝手な話でもありますけどね。
リカちゃん人間
これは人形だった少女が人間になる話。価値観的にはかなり常識的で、展開も爽快です。安心して読める作品でした。
*1:佐藤友哉の本の感想 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む
*2: フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)
*3:なんと奥さんがこの本の書評を書いてます。http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/452501.html