1000の小説とバックベアード 佐藤友哉
- 作者: 佐藤友哉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/03
- メディア: 単行本
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フリッカー式からずっと読んできましたけど、これは佐藤友哉の最高傑作ではないでしょうか。第20回三島由紀夫賞の受賞も納得です*1。僕は著者と年が近いのですが、著者の抱える悩みなどはよく共感できて、励まされます。
http://www.shinchosha.co.jp/book/452502/に冒頭部分や書評がありますので、興味がある方は是非読んでみてください。
一応、僕のほうも自分なりに本書を紹介しておきます。
小説に心を動かされたことがある人全てにお勧めできる、2007年の時点でもっとも新しい”小説”。
本書の主人公は、首になった物書き。ただ物書きといっても一般の人向けのものではなく、ある個人のために、その人が必要な物語を書く片説家。しかも小説に憧れすぎて首になった片説家です。
この設定からも著者の”小説”に対する並々ならぬこだわりが伝わってきますが、小説を書くっていうのはどういうことなのか、佐藤友哉の解答が歓喜と苦悩と共に語られる傑作です。
以降は、個人的な感想。大幅にネタバレを含みますのでやはり隠します。
前半はひたすらおもしろかったですね。
ただ、バックベアードが出でくるあたりから個人的にちょっと納得いかないものがあります。
僕は普通の現代を舞台にした小説にいきなりファンタジーがでてくるのを嫌う傾向にあるんですよね。村上春樹で言えば、羊シリーズとノルウェイの森ではノルウェイの森が好きなタイプです。ファンタジーにしなきゃいけないのだろうか…例えを使わないままではいけなかったのだろうか。いつもそういう疑問が沸いてしまいます。
今回もバックベアードが現実にいなかったら、書かれた文字達は循環せず、なんか救いがないような…。結論が大きく変わってしまいませんかね…。
クーンツ*2が言う自分が生きたという証拠を残したいという執筆動機から本書では一歩踏み出しているとは思いますが、どんな名著でも自分の名前は結局残らないという事実に対して、本書は納得いく答えをはじき出せているのでしょうか。先人へのリスペクトや自分がそこにつらなっていきたいこと、そういった気持ちは非常によく共感できるものでしたけどファンタジーにしてしまった分そこが曖昧になっちゃった感じがします。。
そういえば今回は”日本文学”なんですね。佐藤友哉のバックグラウンドにはサリンジャーがあるという認識だったので、今回なぜこんなにも日本文学の話をしているのか少々戸惑いもありました。自分のルーツを見つめなおしたら、日本文学に行き着いたのでしょうか。
今の小説は文体が新しくなりつつあるっていうのはなんか僕も感じるところです。冲方丁も記号を使って近未来的なものをあらわしていたりしますね。僕もこうやってブログにいろいろ書き残していますが、文字に書けることと書けないことがあります。物を書き残すフォーマットっていうのはすごく大事ですね。
文学っていうのはまだフォーマットができてないことについてなんとか手を伸ばす行為だとどこかで聞いたことがあります。そういう意味では、これは正当な純文学ですね。