物語を作る遊び方に関する問題意識
最近ずっとこの話を書いていますね*1 *2。何か結論があって書いているのでなく、考えながら書いているのでまとまりなく複数のエントリになってしまうのでしょう。
最近紙魚砂さんの呟きを読みまして*3、どうしてこんな話をしているのかあんまり理解していただいてないと感じましたので、今回は僕が持っている問題意識についてお話しします。問題意識には個人的なものとそんなに個人的でもないものの二つがありますので、それぞれについて。
創作の楽しみ
まず個人的な問題意識ですが、それは一言で言えば創作の楽しみって何だろうということです。そもそも楽しみって何なのか説明するのは原理的に難しいものでありまして説得力のある論を展開することはできないのですが、もし共感していただけるなら幸いというスタンスで書かせていただきます。
1.46 人間は「だまされる能力」があるからこそフィクションを楽しむことができる
1.6 物語の作り手になるということは、どこかで「だまされる」人でなくなるということかもしれない。
1.62 「物語」の構造を分析できるようになればなるほど。自分が読者として楽しむ作品の「先が読める」ようになる。「だまされなくなる悲しみ」は確かに存在する
新城カズマ 物語工学論から引用
これが全てであるなら、物語の作り手の視点なんていらないか少なくともアマチュアが持とうとすべきものではないですね。TRPGに関して言えば、TRPGは物語を作る遊びであるというスタンスよりも、TRPGはやっているうちに勝手に物語ができる遊びであるというスタンスのほうが良いという話になります。
でも、僕には物語に限らず創作というのはそれ自体楽しいものであるという信念があります。こうした論考めいた文章を書くのも一つの創作欲のはけ口ですし、僕は絵を描くのも音楽を作るのも大好きです。
物語やフィクションの創作の楽しさを紹介するために、ちょっと長いですけど天野こずえのARIAの10巻から引用してみます。魔女のベファーナっていうのはサンタみたいな存在だと思ってください。
アリス 「何だか最近どきどきわくわくしないんです。」 「子供の頃はサンタはいるって信じていたし 魔女のベファーナにも憧れていたのに」 「大人になるにつれてそんなどきどきわくわくが小さくなっていく気がするんです」 藍華 「それって二人が実在しないって現実が見えちゃって クリスマス気分を心から楽しめないってこと?」 アリス 「はい。」
アテナ 「ねぇアリスちゃん もしかして 大人になるのはつまらないって思ってる?」 「それって とってももったいないわよ」 「確かに子供の頃は楽しいことが向こうからどんどんやってくるわ」 「でもね いつも いっぱいいっぱい 余裕ゼロ」 「大人になればそれまで見れなかった素敵な世界に気付くことができる」 「素敵な大人になればいつもただ待っているだけじゃない」 「魔法をかけて魔女のベファーナ自身にだってなれるのよ」 天野こずえのARIA(10) (BLADE COMICS)より 文意を変えぬままいろいろ省略しています
子供のころはサンタにプレゼントをもらうことしかできないわけですが、大人になれば自分自身がサンタに、つまり夢を配る存在になれる、その素晴らしさがここで語られています。
もうすこしこの話の文脈に沿うように言い直しますと、よい物語ができるのを待つんじゃなくて、自分から積極的に作りにいく楽しみというのもあるのではないかということです。
そういうのはTRPGじゃなくて小説でやってくださいよって意見もあるかもしれません。確かに小説でやっても悪くはないのですが、僕の創作欲は”絶対プロになってやる!”とかそういう大げさなものではなく、”身近な人に読んでもらって楽しんでもらえれば良い”程度のものです。後者のような創作欲のはけ口としてTRPGはぴったりなところがあると思うのですよね。これはMADや二次創作の考えと似ているのかもしれません。あれも自分の作品で自分の存在を世に問うとかそういう大げさな動機より、ネタが分かる人同士が楽しめるものを作りたいといったようなささやかな動機からできていると思います。ニコニコやpixivやpiaproで作品を作っている方のほとんどはそうなのではないでしょうか。
メタ視点を持ったPLとしての遊び方
さてもうひとつ、TRPGにおいてはキャラクターの情報よりもキャラクターの知りえないような情報を元にキャラクターを操作するいわゆるメタな遊び方というのがあります。ここでは詳しいことは省きますが、よく知らなくて興味を持った方はhttp://nozomism.hp.infoseek.co.jp/Arianrhod/Talk_about_Meta.htmlをご覧下さい。最近ではhttp://blog.talerpg.net/rpg/archives/1610のように、こういった遊び方特有のルール整備も行われています。
メタ視点を重視した遊び方においては、PLも作り手としての意識を持たざるを得ないと思うのですよ。、TRPGはやっているうちに勝手に物語ができる遊びではなく、TRPGは物語を作る遊びであるというスタンスに近づいていくと思います。
GMはメタ視点をもってセッションに介入していると思っているので、GMの楽しみや技術について見直すことで、メタ視点をもつPLの楽しみや技術を論じることにつながっていくんだろうと考えて、最近の論考を書いております。シナリオとかプロットとかがGM主導な場合はもちろん、近年よく話題にあがるPL主導のやり方でこそ、こういった視点・技術・楽しみは重要になるのではないでしょうか。