人身御供論 大塚英志

人身御供論 通過儀礼としての殺人 (角川文庫)

人身御供論 通過儀礼としての殺人 (角川文庫)

本書を手にするきっかけ

通過儀礼としての殺人…物騒なサブタイトルがついてますけど、それはちょっと前の時代の雰囲気ってやつで、物騒なことを言わんとした本ではありません。

昔の説話や漫画を題材にして、前半では大人になるための物語(ビルドゥングスロマン)に共通してでてくる殺人の意味の解明をし、後半では近代の”大人になることが困難になった”社会における、ビルドゥングスロマンの役割などを考察した一冊です。

すこし古い本なのですが、最近のゼロ年代の想像力の関係で、近代の人が”成熟”するということに関して、新たな意見がでるかもしれないので*1、この辺の話を少し整理しておこうと再び手に取った次第です。

TRPGと成長物語

このブログに記録がないので、僕がいつこの本を読んだのかは定かではないんですが、2004年以前だと思います。そのころは、サブカルチャーに関する興味から東浩紀大塚英志の著書を読んでみようという動機で読んだはずです。そのころはTRPGをしておらず”ふ〜ん”という感想で終わった本書でしたが、GMとして自らが物語を書く立場になった今、本書の内容は非常にエキサイティングなものとなりました。

この本がTRPGのシナリオ作成に役に立つという意見を検索して見つけたのでちょっと引用します。

なんかタイトルがこっぱずかしいので買ってなかったのだが、「ファウスト」創刊号の東浩紀の文章を読んでたら、大塚英志がこの本(「キャラクター小説の作り方」のこと)でTRPG批判をしているという記述があったので買ってきた次第。「人身御供論」あたりをバイブルとしてGMやってた人間としては、そいつぁちょっと見過ごせない。
でまあざっと読んでみたのだが……いったいどこがTRPG批判なんだ? つーか、外部の人間がTRPGを物語ツールとしてここまで高く評価してくれてるのを、俺ははじめて見たよ。
http://www20.big.or.jp/~stj/blogs/000599.htmlから引用

僕はここで使われている”バイブル”という言い方は大げさではないと思います。この本は”成長物語”の書き方についてのいい指南書ですよ。TRPGで”子供が大人になる”ということをテーマにしたい場合是非手にとって欲しい一冊です。ところでこの引用先の方、PLANETSの関係者の方なのですねw*2。世界は狭いというかw。

物語とテーマ

先ほど、”子供が大人になる”ということをテーマにしたい場合と言いましたが、これは少年・少女向けのエンターテイメントの王道のテーマです。主人公がなんらかの意味で成長しない物語こそ珍しいはず。本書はそのような成長者の作品をたくさん扱い、そのような王道のテーマを語る上で、欠かせないパターンを抜き出してみせます。また、そのパターンがどうして、そのテーマを語る上で重要なのか、その関係性をはっきり浮き彫りにします。

具体的には

  1. 最初の求愛者の登場
  2. <分離>:自分の所属する共同体からの分離
  3. <移行>:非日常的な体験
  4. 最初の求愛者の死
  5. <再結合>:共同体への再結合

このフォーマットはあまりに普遍的なため、普通に物語を作れば、だいたいこのフォーマットに従った物語になると思います。しかし、そこでフォーマットを意識すると、テーマを語る上で変更してもいい部分と変更してはいけない部分の差が明確になると思います。民話というのはさまざまな変種が存在し、それもあわせて解説されるので、物語の筋を変更することで物語のテーマがどのように変わるのか意識できることでしょう。

ダブルクロス・リプレイ オリジンで言うと

ダブルクロスのリプレイ・オリジンに応用してみます。自分の感想は以下のリンク先。

今回”最初の求愛者”はUGNでしょうかね。

  1. UGN登場
  2. <分離>:レネゲイドに感染しUGNにくる。…今回はUGチルドレンなのでちょいと微妙なところですね。
  3. <移行>:UGNでの生活
  4. UGNの機能不全(UGNの死)
  5. <再結合>:ここで、UGNに所属しないという選択肢もとれるんですけどやっぱりUGNを選択する。UGNに選ばれたのではなく、UGNを選んでいることに注意。

今回主人公はUGチルドレンなので、今回の”最初の求愛者の死”フォーマットじゃなくて、より単純な<父>を殺す話だと思ったほうが簡単かもしれませんね。

ところで、最後の再結合でUGNに留まる選択をするのは、ちょっと考察に値します。成長物語らしい成長物語では、最初と最後で主人公の社会的な立場が変わるはずですが、今回はそうではありません。これはひとつには機能不全という段階ではUGNを殺しきれてないことが原因です。UGNが完全に崩壊しているなら新しい生き方を探さなきゃいけないところでしょう。かといって、作中で新しい生き方が見つかる手がかりなどは得ていないので、エンディングでいきなり新しい生き方をする宣言をするのは不自然ですが。そういうことを考えると社会の成員になるという成長物語ではなく、あくまで社会的立場とは別のところでの”個”の成熟の話をしていることが分かります。現代的ですね〜。

ところで、ダブルクロスはロイスをタイタスにするということで象徴的に人が殺せるシステムです。これを意識すればフロイトとかを参考に人が殺さなきゃいけないものを逐次ネタにすることができますね。これはいいこと思いついたかも。

ダブルクロス・リプレイ アライブでいうと

さらに思うんですが、リプレイ アライブでいうところの最初の求愛者って…三郎のことなんじゃ。
三郎のおかげで自分がオーヴァードという現実へソフトランディングする…。
まさに移行対象ですね*3。うわぁ深いな…w。最終的には三郎を殺すことになるんですね。

ハルヒに応用するとw

調子に乗って涼宮ハルヒの憂鬱に応用してみましょう。ハルヒの成長ものと見るかキョンの成長ものと見るかで話は変わります。

まず、キョンの成長ものとしてみた場合、最初の求愛者はハルヒでしょうね。キョンが成長するためにはハルヒを殺すしかないという状況wこれはキツイですね。まぁ殺すってのは象徴的な意味でいいんですけど。要するにハルヒが非日常から興味を失うって感じでしょうか。ちょっとインパクトが弱い気がしますね。

次にハルヒの成長ものとしてみた場合。最初の求愛者はキョンですが、キョンというかジョン・スミスですよね。だからキョンがジョン・スミスであることを打ち明ければ、ハルヒは成長に向かうはずなんですが、この場合、宇宙人は否定されても未来人が否定されないことになってしまいますね。たぶん結末はこっちで、これをうまく乗り越えるトリックを考えるんだと僕は予想しています。

まとめ

何かの成長物語を書く以上、結局このフォーマットになると思います。
何かテーマ性を持ってシナリオつくりをする場合、ぜひ参考にして見てください。