分析力VS共感力 求める展開からのズレとテーマの立脚点

ガガガトークは、例のガガガ文庫トークセッション企画です。
今回はその第2回である東浩紀イシイジロウの回に着目して、TRPGに役立つ部分を拾ってこようと思います。リンク先はこちら→http://ga3.gagaga-lululu.jp/talk/02/

基本的に今、ライトノベル界に求められる才能についてのトークなのですが、TRPGにも言及されています。

どこもかしこも閉塞状況…あ〜こりゃこりゃ 齟齬を許せない?

ライトノベルなんてTRPG業界に比べればよっぽど賑わっている感じもありますが、閉塞感があるといえばありますね。ここではライトノベルを手本にライトノベルを書いていることが原因として挙げられています。
TRPGでも、どうもどこかで見たような、どこかで聞いたような展開になってしまって閉塞感を感じる…口には出さずともそう感じていませんか?

佐藤:最近思うのは、人が物語に共感する力。小説でも映画でもゲームでも「こうなってほしい」という願望と、実際の展開がズレた時に、自分の中で処理することができない受け手が多い気がする。
(いろいろ略)
イシイ:逆に、さっき大さんが言ってたみたいに、裏切ると客に引かれてしまう傾向になっているメディアには、金字塔的ヒットが出てくる気がしないんですよ、
(またまた略)
イシイ:いつの間にかギャルゲーっていったら、ハーレムゲームというか、ただのモテゲーになってしまって、どんどん淘汰されていった。中には、プロットが凝ってるものとかあるんだけど、基本的にはユーザーを持ち上げてくだけの単なる幸せな世界。突き放すものがない。ライトノベルも、今後、そのような方向に行くのであれば、緩やかに消えていってしまうかも、という危機感はありますね。
(さらに略)
佐藤:そうか。ライトノベルの現状は、美少女ゲームの閉塞感とすごく近いのか。ズレることを畏れるユーザーとクリエーターが中心になってしまっている、という。でも、ズレたものこそ、実は次の世界を産んでいたって可能性もありますよね。

僕はメタ視点大好き、GMの意図をぶっちゃけるのも大いにけっこうと思っているのですけど、PL側になにかサプライズを与えることって大事だと思うんですよね。GM側はメタな事情を明らかにしつつも、どこかでPL側を騙してやろう、裏切ってやろうと思うことが大事かと思います。
PLはGMのシナリオイメージを受け取り、それに合った遊び方をする、そしてGMはPLのイメージを拾う。その重要性はよく語られますが、そこで敢えて逆らったり、物語を違う方向に持っていったりするそういう正しい脱線の能力や遊び方についてはまだまだ未発展なのではないでしょうか。

ちょうど紙魚砂さんが関係あることを書いているので便乗リンク。

ルール作りとTRPG

佐藤:(前略)ルールを自分でつくっていかないと良いものにならない気がするし、逆に、そのルールに絡め取られそうになって抵抗するときに、さらに良いヒラメキが生まれる可能性があるんじゃないかと思う。
(いろんな人の話を略)
イシイ:小説でもゲームでも、巧いなと思う人たちには、TRPGテーブルトークRPG)を通ってきた人が多いと思うんです。
TRPGをつくった人間というのはルールで勝負しなくてはいけないんですよ。ゲームではユーザーたちがいろんなこと言うわけですよね。それに対応するものをつくるから、ルールが厳しいんですね。どうとでも対応できるし、どう転んでも面白くなるようなルールをつくっておかなくてはいけない。
今はキャラクターものが流行っている。たとえば、綾波レイ的な娘をあるパターンにハメてみよう、みたいに、キャラクターの設定からストーリーを転がそうとするわけです。ルールがつくれる人間は、キャラが立ったものでもワンパターンに走らないものをつくれるはずだと思ってます。
今度、うちの社内でTRPG研究会を、昔やってた人間を引っぱり出してやろうかなと思ってるんですよ。
(文章の順番を変えて指示語を補ってあります。悪しからず。)

えーと、以前から大塚英志がTRPGは小説書きに役に立つと述べているのですが、ここでの文脈とはちょっと違うことに注意してください。彼が言っていたのは、そもそも登場人物の気持ちになって話したり、行動決定ができないようでは、物語を書くのもままならないだろうから、ゲームを通してそういうのに慣れようっていうのが第一です。それで、キャラクター設定をメインに何通りも物語を書くという方法で大量に物語を生産し、物語を書く基礎体力をつけましょうって話でした。

しかし、ここで言われているのはむしろGM的、ゲームデザイナー的な工夫の話です。PCの性格に縛りをいれる話も含むので完全にGM的ってわけでもありませんけど、基本的にはGM側の話でしょうね。ちなみに奈須きのこも似たようなことを述べているのでこちらも参考にしてみてください。

ただ展開をなぞっただけの、技巧がこらしているだけの物語で終わらないためにはどうすればいいのか、繰り返しになりますが、こうまとめてあります。

東:自分のなかに、変えたいと思っても変えられないような絶対的な立脚点をもってないといけない。別の言葉で言えば、現実感をつくっておくということです。「このキャラは、こうは動かないだろ」という感覚がなければ、どうとでも動かせちゃう。ライトノベルの虚構世界は本当に自由度が高いんで、それがないと、構造的なきれいさが先行して、6人いたら3人と3人のパーティにわけてみるかとか、そんな判断しかなくなってしまう。「違う、こいつはこいつと一緒に行かないよ」っていう必然性がないと、ストーリーは展開しない。そして、その立脚点は、ある程度テーマということにつながる。物語の展開の外側に確固たるテーマをつくっておかないと、物語はつくることができない。

アリアンロッドリプレイルージュのトランを思い浮かべちゃいませんか?

ちなみに上の引用のあと分析力と共感力の話につながるけど、これはTRPGで言うならメタ視点とPC視点の話ですね。

まとめ

  1. 業界が育ってくるとその業界の中でコピーと再生産が行われて、だんだん新鮮さがなくなってくる。
  2. クリエイターもユーザーもお約束を重視しすぎて、自分が理解できない展開を避ける。
  3. そういう状況を改善するには意図的に齟齬を作ることが必要なのではないか。
  4. 構造の綺麗さよりも、自分の中のルールを上位に持つことも有効である。