ロールプレイ支援ルールのゲーム性

さて前の記事ではTRPGのゲームとしての側面を考察し、主に想像上の人物を動かす楽しさに意思決定を加えることで成立しているゲームについて考えました。

今回は、もうちょっと違うゲームも同時に行っていないのか考えてみることにします。

娯楽の核の拡張

前の記事ではゲーム性を素朴な娯楽を飽きにくくしたり、深みをあたえるものとしていましたが、もう少し広い意味でのゲームを考えたいので(意志決定以外のゲーム要素を考えたいから)、Jesper Juulのゲームの定義を持ってきましょう*1。ただし6は今回の問題意識とはあまり関係なさそうなので考えないことにします。

  1. ルール: ゲームはルールに基づく。
  2. 可変かつ数値化可能な結果: ゲームはさまざまに変化しうる数値化可能な結果を持つ。
  3. 起こりうる結果に課せられる評価: ゲーム結果に良し悪しなど価値が付加されている
  4. プレイヤの努力: プレイヤは結果に影響を及ぼすべく努力を傾けるということ。ゲームはプレイヤの手腕を問う。インタラクティブである。
  5. プレイヤと結果の繋がり: ポジティブな結果が発生すればプレイヤは「幸せな」勝者となり、ネガティブな結果が発生すれば「惨めな」敗者になる、という意味で、プレイヤは結果と繋がっているということ。
  6. 対価交渉の可能な結末:現実世界への影響を任意に割り当てることができる。ギャンブルとか。

今回のゲームの定義は素朴な娯楽に何かが加わって、以上のような特性を持つものとします。Jesper Juulの論では上記6つはゲームの必要十分条件で、何か欠けているものはゲームと非ゲームのボーダーラインに分類されるのですが、今回はいくつか満たしていれば良いことにしましょう。

例えば前回ゲームに入れなかった人生ゲームですが、コマを動かす+競争だとみることにより4以外を満たしてますね。逆に意志決定は主に4に重きが置かれたゲーム性でTRPGの場合1や2を満たしているかどうかは微妙なところです。

ロールプレイ支援

さて、やっと準備が整いました。TRPGでロールプレイ支援と呼ばれるルールがあるものについて、娯楽の核とゲーム性を解析してみましょう。

ロールプレイ評価

天羅やカオスフレア、番長学園などに搭載されているロールプレイ評価のゲーム性を考えてみましょうか。具体的に言うとロールプレイの上手さやノリの良さを評価して、良いプレイヤーにはポイントを付加する仕組みのことです。

これは、娯楽の核はきっと相互承認ですね*2。要するに人に認めてもらえるのが嬉しいという気持ちです。それに発言を評価する要素が加わっていると考えます。

  1. 厳密かどうか微妙ですが、ルールに基づいていることは確かです。
  2. 基本的に数値化可能な結果をもたらします。
  3. ポイントを多く集めるのが良い結果です。
  4. おもしろいことやPCの背景・感情に沿ったことを言う努力が必要です
  5. そのポイントが戦闘を有利にします

1以外は確実に満たしていますね。ロールプレイ評価とはTRPGの(あるシステムの)ゲーム性の一つだと言えます。搭載されてないシステムではゲームになっていない相互承認という娯楽の核をゲーム化したものといえそうです。

カードに沿ったセリフを発言

最近発売されたシルバーレインには、ロールプレイ評価とは違うタイプのロールプレイ支援ルールがあります。このゲームではカードを使うのですが、カードを出すときそのカードに書かれたキーワードを用いたことを言うとポイントが加算されます*3。さて、このルールの娯楽の核はやはり想像上の登場人物を動かすことですかね。セリフをいうことで自分のキャラクターへの感情移入を促進し、登場人物を動かすことに熱中させます。

  1. 明らかにルールに基づいています。
  2. 基本的に数値化可能な結果をもたらします。
  3. ポイントを多く集めるのが良い結果です。
  4. 基本的にはあんまり努力は要らないような気がします。恥ずかしいことと難しいことは別なような…。恥ずかしいことも抑えるのに努力がいるというなら努力要素はあります。
  5. そのポイントが戦闘を有利にします

4以外は満たしてますね。上達要素がありプレイヤーの手腕を問うということはゲームを飽きなくするという意味ではいいのですが、初心者が参入しにくくなるという問題も含みますので、そのあたりを踏まえてデザインなのでしょう。人生ゲームに4がないのも同じ理由でしょう。

まとめ

娯楽の核のアイデアを素朴なおもしろさとそれに付加される要素と見なして拡張し、ゲームを広く定義しなおした上で、TRPGにおけるロールプレイ支援ルールのゲーム性を論じました。

TRPGには想像上の人物を動かすという娯楽の核のほかに、相互承認するというおもしろみがあることを指摘しました。

ゲーム性に関してプレイヤの努力があるものとないものでは上達するしないの違いがあるので、飽きなさをとるか、初心者の参入のしやすさをとるのか、そのデザインの違いなのではないかと指摘しました。

余談

実はこの記事は、前に書いた会話を中心要素に添えたTRPG観について書こうと思って出発したものです。

TRPGとは人と会話するという娯楽の核に、ゲーム要素を加えたものであるという認識になりますが、こういったTRPG観もなかなか面白いのではないでしょうか。
TRPGによるソーシャルスキルの獲得 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む

しかし、娯楽の核による分析は基本的にゲームに関するものなので、雑談みたいなものの価値を積極的に評価するにはうまく使えませんでした。もうちょっと別の文脈を考える必要がありそうです。