うみねこのなく頃に ep.3

さて、うみねこのなく頃に ep.3です。画像はとらのあなのサイトから転載しています*1

うみねこのなく頃には、現在の最先端を走るサウンドノベルですね。どういう意味かといいますと、このうみねこがどういうゲームなのか、僕も含めてみんな分かってない(言葉にできてない)海のものとも山のものともつかない形式だと思うのです。

このうみねこのなく頃には、物語をチェスに見立てたゲームが展開されています。
人間・戦人と魔女・ベアトリーチェ(以下ベアト)という二人の指し手が、物語の解釈をつむいでいくのですが、ベアトはこの物語を魔法が使われているとしか解釈できないと主張し、戦人は魔法など使われてないという解釈をつむいでいきます。それで完全に反論できなくなり、人間側が魔女の存在を認めれば魔女側の勝ちになります。逆に魔法のトリックを見破れば、人間側の勝利となるのでしょう。
チェスの喩えでは少し分かりにくい方は法廷を思い浮かべてもらえればいいかもしれません。検事が魔女側として、検事は事件のあらましを語り、この事件には魔法が使われていることを立証しようとします。逆に弁護側はその立証には穴があり、魔法が使われてないことを立証していくわけです。判事がいないのが微妙なところなのですが、判事はある意味弁護側でしょうかね。最終的には弁護側が握っているからです。

この、ゲームをしている二人の様子を我々が見ていきます。基本的には自分の立場を(ベアトと対立する階層の)戦人の立場に重ね合わせ、魔女の”魔法説に対抗する理論を構成する”ことが読み手の仕事なのでしょう。そういう意味ではクイズやミステリのようなものですね。物語を俯瞰する視点の登場人物を置きましたが、その登場人物が持っている情報と、我々読み手が持つ情報はほぼ同じなので、読み手と(ベアトと対立する階層の)戦人では立場の差は生じません。これはひぐらしとは違った構造です。

先ほど、このゲームをクイズやミステリに喩えましたが、従来のミステリとは大きくルールが異なっています。通常のミステリでは地の文では嘘をついてはいけないという暗黙のルールがあることでしょう。しかし、今回では物語の提供側が魔女なので、地の文で嘘をつくことができます。こんなルールでは人間側が勝つことなんてできないと思われますが、人間側は以下のように述べれば負けることもありません。相手の立証が嘘かどうか確かめる手段がなければ、その手法に魔法が使われていると信じることもまたできないと。この議論を経て、ep.2からは”赤い字で書かれた部分は本当”というルールが増えました。

さて今、ルールが増えたことに着目してくださいね。うみねこは、ゲームの開始時点でルールが全て明らかになっていないゲームなのです。このあたりは非常にTRPG的だと思います。TRPGでも、基本的なルールはルールブックに書かれていますが、ルールブックに載っていない判定をするとき、どのルールをどのように用いるのかはその場で決定されます。実際に遊んで見ないと勝敗を決するためにどのようなルールが必要とされるのか分からず、必要によって作られるのがTRPGとの共通点です。
うみねこのなく頃にはTRPGよりもずっとひどくwルールが後だしされていきます。今使える手は思い出せる限りでは以下でしょうか。

悪魔の証明(([http
//ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E9%AD%94%E3%81%AE%E8%A8%BC%E6%98%8E:title])):存在することを示すには実例を一つあげれば良いが、存在しないことを示すにはあらゆる可能性をつぶす必要があり、実際的には不可能になる。
ヘンペルのカラス(([http
//ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%82%B9:title])):カラスは黒いという主張を正当化するには黒くないものならばカラスでないことを立証すればよい。全部のカラスを調べなくても黒くないものを全部調べてそれがカラスでないならば、自動的にカラスは黒くなる。

なんか小難しくなってきましたw。魔法で犯行を行ったかどうかに話を戻しましょうか。
魔女側の手:魔法で犯罪を行ったと主張。密室で行われたことを立証。
密室だというところまでは魔女が嘘をついてないとして、これに対抗するためにはどうすれば良いのでしょう。
人間側の手:魔法を使わなくても密室で犯行を行えたことを主張。
人間側の手:物理的な手段で密室で犯行を行えたことを立証。
これができれば直接的ですが、これは密室トリックを解かなければなりません。密室トリックが解けなくても負けないためのロジックが悪魔の証明です。
人間側の手:密室で犯行を行える物理的な方法がないことを立証するのは悪魔の証明により不可能。よってする必要がない。
まぁこういう風に使って相手のロジックをかわすわけですね。先ほどのヘンペルのカラスなども使ってまるでTCGのコンボみたいに論理が積み立てられていきます。このあたり僕にはけっこう面白いですが、ちょっと敷居が高そうですね、読者層が狭くならないかな…。

さてさて、だいぶ話も込み入ってきましたし、最初の話に戻しましょうか。うみねこがどういうゲームなのか、僕も含めてみんな分かってないって話です。前回ゲームの勝利条件と敗北条件の話をしました。

ベアトリーチェ側の敗北条件
碑文に示された謎が誰かに解かれること
戦人側の敗北条件
魔女の存在を認めること

うみねこのなく頃にのメタ構造をTRPGリプレイとして理解する - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込むから引用

ここまではみなさん承知していると思うのですが、お互いの敗北条件にいたる一歩手前の手続きは何かがまだ示されていません。要するに何が勝ちなのかは分かっていますが、どうやって勝つのかはまだまだ想像すらついてない。なんといいますか、これらの勝利条件に今のルールのままで到達できるのかどうかも定かではありません。実際にルールは足されているわけですし。まだ完成されてないルールを用いて争っている。または、勝敗がつくためにはどのようなルールが必要かすらを含んだ戦略が求められるこういったゲームを行っているわけです。ゲームをしているのにゲームの全貌はまだ見えてないんですね。

このうみねこがミステリ的に解けた場合。つまり、誰が、なぜ、どのように事件を起こしたのかを解明できた場合は、戦人側の敗北条件を満たせなくなるので勝利となります。しかし、このゲームでは探偵である人間が現場をみることができません。魔女が赤字で語ったことは本当、しかし供述を拒否することもできる。このルールだけで、追い詰められるのかは不明です。

ベアトリーチェ側の敗北条件はさらによくわかりませんね。読み手が碑文を解けばなぜ勝利できるのかそのあたりの論理も不明です。実際ep.3では碑文が解けているようにも見えます。

まとめ

自分でもよくわからなくなってきたのでまとめましょう。

僕が主張したいのは、このうみねこのなく頃には、定められたルールの中で到達可能な勝敗を決めるようなゲームではなく、必要となるルールを定めながらどうやったら勝敗に到達をするのかを考えるメタゲームである、ということです。

上記でこの主張が裏付けられているのかちょっと自信がありませんが、僕はそのように感じています。