PSYCHE (プシュケ) 唐辺葉介, 冬目景

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

Something Orangeさんでオススメされていたので読んでみる(瀬戸口廉也復活か? 『プシュケ』。 - Something Orange)。唐辺葉介は新人ですが、もしかたしたらギャルゲーのシナリオライター瀬戸口廉也なのではないかと噂されているそうです。僕は瀬戸口廉也のcarnivalは好きですし、こら読まないとなぁと思いました。

冬目景の絵がいい感じですね〜。でも、この娘は誰?主人公は男だし、作中に出てくる女の子は活発な感じの子なので絵とイメージが合いません。作品全体の雰囲気とこの表紙の絵の雰囲気は合っているんですけどね。

さて、内容に関して。唐辺葉介瀬戸口廉也なのかはほんとのところでは分かりませんが、確かによく似ている気がしますね。離人症的な登場人物とか、限界状況で人が何を信じてるいるのか描いているとか、どこか静謐で美しい雰囲気をかもし出すところとか。

読んでいるときには知りませんでしたが、PSYCHEとはギリシア神話の登場人物だそうです。読み終わった時には何とも言えない読後感で、感想で何を書こうか迷いましたが、このギリシア神話を知っているとテーマが見えてきますね。この話はネタバレになるので最後に書きましょう。

幻覚と現実がごっちゃになった幻想的な小説で、ストーリも少々陰鬱ですが、読後感は案外さっぱりしていて後をひきません。物語全体は涼やかで静かな雰囲気に包まれています。万人にオススメできる作品ではないかもしれませんが、ちょっと変わった話にチャレンジしたい方は是非お読みください。

考察

以下はテーマについて考察します。
先ほども言ったとおり、プシュケというタイトルから考察を始めます。

神となったプシューケーは、「愛」を支えるのは見ることでも確かめることでもなく、相手を信じる「心」である、と恋人たちにささやく役目を担うと言われる。
プシューケー - Wikipediaから引用

なるほど、この小説も信じることや見えることについての話ですので、ここが争点になっていることでしょう。

この小説を貫くルールの一つは信じているものは見えるということでしょうか。信じている強度が弱い場合にはリアリティがありませんが、信じている強度が強いとリアリティを持って見えます。

小説の後半では、それがエスカレートしその高いリアリティがリアルになってしまうという倒錯が描かれていきます。リアルな蝶の羽の幻覚によって、そのリアリティが支えられていたはずなのに、リアリティのある蝶の羽がリアルと同じ効果をもたらしていきます。

信じること→見えること→存在することという過程を経てリアリティのあるものが実際にリアルになってしまうのならば、信じることと存在することは同じであるわけですね。

しかし、一つ気をつけなければいけないのは見えることというのは、うつろいやすいということです。蝶の羽の模様は構造色なため、油などで浸せば色あせてしまう。

自分を支えてくれた(虚構の)強い存在感も、ちょっとしたことですぐに色あせることもある。そんな危うさを描いた作品だと思いました。