沙漠の国の物語―楽園の種子  倉吹ともえ 片桐郁美

沙漠の国の物語―楽園の種子 (ルルル文庫)

沙漠の国の物語―楽園の種子 (ルルル文庫)

この物語と出会えて良かった。そう素直に思える名作です。

出合い

本作は第一回小学館ライトノベル大賞ルルル文庫部門大賞の受賞作です。

そもそも僕はウパ日記さんの以下の言葉に惹かれて購入してみました。

ファンタジー小説はもう少女向けレーベルの独壇場だなあ。
男性向けレーベルの「可愛い魔法少女」が出てくるだけの、なんちゃってファンタジーとは一線を画している。

http://d.hatena.ne.jp/iris6462/20070608/1181230809より引用

ファンの方には申し訳ないんですけど、僕はゼロの使い魔が真っ先に思いうかんじゃいましたね。僕は1巻しか読んでないので、あれからおもしろくなるのかもしれませんけど。

それはともかく男性向けレーベルのファンタジー部門の弱さには同意しました。狼と香辛料*1が孤軍奮闘といったところな気がします。女性向けレーベルの(ルルル文庫は女性向けのレーベルなんですよ)ファンタジーなんて読んだことがなかったですし、この小説に興味がわきましたね。

内容

あらすじとしては、男装の少女ラビサが、”シムシムの樹”の種子を他の街へ受け渡す使命を受け、沙漠を旅するお話です。シムシムの樹は水源となる樹木で沙漠を暮らすものにとっては非常に重要なものです。使命を帯びた若者が旅を通じて大人になる…そんなビルドゥングスロマンを思い浮かべてもらえればけっこうです。話のつくりとしてはオーソドックスな話だと思いますが、テーマも深く、そのストレートな話を飽きさせず読ませる文章力もすばらしい。僕は女性向けとか男性向けとかそういう垣根を抜きにして、この作者、この物語がすごいのではないかと思いました。ミミズクと夜の王*2を読んだときにも感じたのですが、ライトノベル業界はキャラクター小説に偏りすぎている反動からか、こういうストレートな作品が逆に求められているのではないでしょうか。

本作の最後にルルル文庫部門大賞の選評が載っています。選者は石田衣良(IWGP)、榎木洋子(コバルトなど女性向けレーベルで作品多数)、篠原千絵(漫画家『天は赤い河のほとり』) です。キャラクターが弱いとか指摘されていますけど、僕は全然気になりませんでしたね。どの人も自分のバックグラウンドに沿って、ちゃんと動いています。物語の骨子がちゃんとしてるのに、あんまり変な個性とかつけられても興ざめですよ。まぁこの雰囲気を保ったままもっと、キャラクターを立たせるというのは高度なレベルで実現可能なのかもしれませんけどね…。

ゲヘナの資料として

僕は通常ライトノベルの紹介には[book]とつけるのですが、今回[trpg]をつけてみました。本作は沙漠を舞台にしていまして、アラビアンナイト的なネタが何個かでてきます。ゲヘナ*3で遊ぶときのネタに使えるかもしれませんね。アラビアン・ファンタジーとして、軽く読めるものは少ないと思いますので、紹介したいと思いました。

また、ゲヘナで遊ぶ予定のないTRPG者の方も、是非お読みください。最近あまりない、ど真ん中のファンタジーですよ。

ドラマCD

沙漠の国の物語―楽園の種子 (ルルル文庫) (初回限定特装版)

沙漠の国の物語―楽園の種子 (ルルル文庫) (初回限定特装版)

僕が買ったのは単に文庫版ですけど、付録にドラマCDがついているものもあるらしいです。2種類あるので買うときには注意してくださいね。

まとめ

ひさしぶりにファンタジーの名作に出会えました。ルルル文庫ですが女性向けにとどめるにはもったいない作品です。男性の方や、特にTRPGをする方にお勧めしたいと思います。

ネタバレ感想編

ネタバレですよ。未読の方は見ないでね。


もうほとんど不満はありません。上で述べたとおりいい小説です。
でも一つ挙げさせてもらうなら、ハディックと再会するシーン以降の主人公の行動は唐突ですね。
今まであんなに悩んでたのにいきなり行動派にw。この辺はウパ日記さんでも指摘されています。

決意のシーンを唐突にしないのは難しいんでしょうね…。