プレイバックシアター 宗像佳代
- 作者: 宗像佳代
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2006/07/31
- メディア: 単行本
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TRPGの参考書として買ったんですけど…あんまり役に立たなかったです。
まず、プレバックシアターとは何なのか説明します。
根本的な部分を抜き出すと以下のような手順で進む即興演劇です。
- 観客から”テラー”を選んで過去の体験を話してもらう
- その体験を”アクター”が演技する
ちなみに”コンダクター”という役割の人がテラーにインタビューをしてアクターに役を割り振ります。
コンダクター=GMでアクター=PLとみると、TRPGに似た構造をもってますね。
僕はこの本に即興劇の技術書的な意義を求めていたのですが、この本はどちらかというとこのプレイバックシアターの概要紹介とか歴史とか社会的意義とかそういうことが書かれていて、いまいち僕の期待にこたえるものではありませんでした。
即興演劇の技術も少々書かれているので一応触れておきます。基本的なことですけどシーンの設営に関するオファーを出す、オファーは唐突でも一応あわせる(きくたけとかFEARリプレイにおける「じゃあそれで!」)、これらが重要なようです。
オファーとは例えば以下のような感じです。
- どの場面から始めるか
- だれのセリフからはじめるか
- 場面展開とどれくらいの長さで終わらせるか
シーン制ではシーンプレイヤーが”どういうシーンを何分でやるのか”を意識するといいかもしれないなぁと思いました。
あまりTRPGの役にはたたなそうですが、ちょっと頭の中が整理されたところもありました。
このプレイバックシアターを演じるための不可欠なスキルとして三つのものが上がっています
- 芸術性(アーティスト)
- リチュアル(儀式)(シャーマン)
- 社会性(ホスト)
テラーの語る内容は実際の体験であるため、社会の不条理であれば正義を想起させます。このようにプレイバックシアターは社会性を持ちます。この点はプレバックシアター独自のもので面白いんですね。シナリオに社会的なテーマを持ってくる人って今はそういないので、TRPGにはひとまず関係ないってことでおいておくとします。まぁそれは今のプレイングスタイルの流行廃りの問題で、TRPGで重たいテーマを扱うこと自体の是非はいろんな意見があるでしょうね。
芸術性っていうのは演出家的な視点でTRPGでいうところのメタ視点です*1。物語をどのような方向にす進ませていくかっていうことをPC視点じゃなくてPL視点で調整するんですね。
一方リチュアルっていうのはどんだけ役に入り込めるかってことです。TRPGでいうとなりきりの部分です。なかなか説明しづいらいので項目を引用してしまいましょう。
- ルールの遵守
- 忘我の感情
- トランスパーソナルな次元
- 変容への道
- 魅惑的な言葉
シャーマンのように…っていうと誤解があるかもしれませんけど、自己の変容、トランスパーソナルなものを”制御”する儀式的なものがリチュアルって言ってもいいと思います。TRPG論考ではこの部分の話はあまり聞かないので目にとまります。
メタ視点となりきりは基本的に対立するものなんですよね。僕はメタ視点が強すぎることをたまに反省するんですがまぁそれは置いておいて…。なりきりのほうをリチュアルと呼ぶってのいうのがかなり気に入りましたね。こういうなりきりには儀式的な手法が有効で、たとえばこのプレイバックシアターではコンダクターの”みてみましょう”っていう言葉が合図になって劇が始まります。そして終わるときにはアクターは完全に止まらなくてはいけないというルールがあります。
TRPGでいうならダブルクロスなんかで”昨日と同じ今日、今日と同じ明日…”ってはじめるのはようは”これからやります!思考を切り替えてください”っていう合図なわけですね。ただ…僕の知る限りTRPGの終了時、現実への回帰を狙った文言とかあんまり見かけないような気がしますね。
よくきく囚人と警察のロールプレイの危険さなんていうのはこのリチュアルの制御がうまくできてない状況なわけです。なりきりにも技術がいる。今後のTRPGは思考の切り替えなどをすっきりきっぱりやれるように、いろいろ技巧を発達してくると思います。
*1:コラムメタ視点。あれは良いものだ