「ブラインド・ウオッチメーカー」  リチャード・ドーキンス ,「赤の女王」  マット・リドレー

この二冊は進化論を扱った生物学の本である。
前者のテーマは,人間の目やコウモリのエコーロケーションなど,
複雑なデザインが遺伝的変異と自然淘汰があれば発生するということを説明している。
この本のタイトル盲目の時計職人とは方向性をもたない遺伝的変異が自然淘汰を繰返すことにより複雑なデザインを完成させることのたとえである。
初めの生命はどうやってうまれてきたのか?などにも言及していて面白い。


後者は全体的に赤の女王効果について述べている本である。
不思議の国のアリスで赤の女王の国では全速力で走っていても
景色のほうがおなじスピードで追いかけてくるのでどこか他の場所につくわけではなく同じところをまわるだけになるという話がある。
二つの生物が遺伝的軍拡競争をして互いが互いを圧倒しようとしていても
結局お互いの進化の速度は拮抗しており互いが他を圧倒することはない
という現象を上の赤の女王の話に例えている。


この本は個人的にブラインド・ウオッチメーカーより面白く感じた。
なぜなら後半のかなりのページを使って人間について説明しようとしているからだ。
人間についての説明は不確かでまだ議論が確立されているとはちょっと言いがたいが
いろんなアイデアをみることはできる。
上野千鶴子は"人間の本生"という言葉を人間の性質を説明するときに用いることは
もうそれ以上それを説明できないということを白状しているにすぎない。
という主旨のことを言っていると思うが,生物学にとっては人間の本生が何かということこそむしろ研究対象である。
動物は親に教えられてもいないことでも自然に繰返す。
それが本能である。
たとえば浮気性かどうかが遺伝するとすると,浮気をしたら死刑という制度でもない限り, 浮気性ではない親より浮気性の親のほうがたくさん子を残すのは確かであると思う。
浮気をしたら死刑という制度があってもより多く繁殖するのは浮気がばれないくらい巧妙な手段を実行しうる親である。
そうなると世には浮気性で巧妙な遺伝子がだんだん蔓延することになる。
生物学的には人間の本能は「悪」である。
いつの時代も相手を効率よくだませた人間が
たくさん子を残し,正直者を駆逐してきた。
犯罪者のほとんどが男性であるというのもそもそも他の男性を殺し
その地域の女性を独占するほど闘争心を持った個体のほうが平和主義な個体より繁殖率は高かったのだろう。
女性がそのような闘争心を持つことは報酬が少ない。
女性がその地域の男性を独占したところで所詮産める子どもの数は限られている。


しかし,この本能というのは克服できるものであるというのが生物学者の見解だ。
本能とはただ単に傾向にすぎない。
本能を正当化する理由はない。


そういう意味では社会学者ももうちょっと柔軟な態度をとるべきなのだとは思う。
しかし生物学者の理論もまだ確立されたわけではない。
浮気性が本当に遺伝するのか,その遺伝子を見つけていないからである。
ゲイになる遺伝子などはすでに発見されかかっている。
ゲイになると繁殖力は減るので遺伝するのはおかしいと思うかもしれないが
ゲイ遺伝子をもつ女性は普通の女性よりも繁殖力が増すらしくそうやってバランスをとっていたりする。


そうやって生物学は物証のあがる科学であるので信用できると思った。

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