前提を合意するために

分かりやすい文章の書き方について、紅茶さんのところの掲示板で議論したんですけど、我ながらイマイチな感じだったので反省を込めて、ポイントを書いておこうと思います。

このお題での話し合いはそれなりに続いたのですが、内容はどこかボタンを掛け違えたようなものになってしまいました。僕はテクニカル・ライティングと言われるような分かりやすい文章の書き方を教えたかったんですが、紅茶さんは文系的な伝統と格式を重んじる文章は、安易なわかりやすさを追い求めるようなスタイルでは書かないほうが良いという意見だったようです。

何が悪かったのか反省すると、ゴールの確認を怠ったのが悪かったなぁと思っています。ものの本にもよく、誰にも反論できない自明な前提から始めて、次に自分の言いたいことにつなげよと書かれています*1。テクニカル・ライティングでも、読者の興味・感心にそった利益をはじめに提示せよ(自明な場合は省略して良い)というのが原則です*2。このように、”最初に相手と共通の利害関係を結ぶ”ことが一番大事なんですが、今回はそこで失敗してますね。分かりやすい文章を提供するのは良いことであるというのが、僕にはあまりにも自明だったので、そうでない価値観がある可能性を見落とし、確認しなかったのがいけませんでした。

自分の中では非常に明らかなことが人に伝わらないときには、およそこの最初に前提を合意するところの問題なのですね。前提が合意できてないと、話しが終わったあと、「いやそもそも意味が分からないんだけど?」とか「この議論意味あったの?」、「趣味の違いかな」とか言われちゃうわけです。話あいの内容よりも、話しあいの前提のほうが反論しやすいっていう言われ方もします。

さて、うまい雑談の仕方とかいう文脈では、相手の前提が自分と違ったらそもそもその話をやめて別の話題にいきなさいと指南する本もあります*3。ただ、ビジネスの場とか議論の場とかでは、そうはいかないのではないでしょうか。こういう場合、どうすればよいのでしょうか?

こういう2つの異なる意見からうまく共通の利益を見つけて対立を解消する方法としてすぐ思いつくのは雲(クラウド)と呼ばれる方法です*4

テクニカルライティングする  読者の負担を軽減する ⇘              
対立                          短時間で正確な理解に読者を導く
テクニカルライティングしない 背景や詳細を含めて説明する ⇗            

この図は下記のようなことを意味しています。短時間で正確な理解に読者を導くという目標を達成するためには、(A)読者の負担を軽減することと、(B)背景や詳細を含めて説明することの2つが必要で、(A)のためにはテクニカルライティングをするべきだが、(B)のためにはテクニカルライティングしないべきである。この図はこのように対立構造を明らかにします*5

ここで、この対立構造を解消するためにはどうすれば良いのか考えます。すると今回の場合はテクニカルライティングというのは必ずしも背景や詳細を省くための手法ではなく、背景や詳細を適切な場所に配置する手法なんだと説明すれば良かったことが分かります。つまり左上のテクニカルライティングすることと、下の真ん中の波形や詳細を含めて説明する、というのは実は対立しておらず、そこが誤解の元だったのです。僕は読者の負担を軽減できることばかり説明してしまいましたが、そこはすでにお互い分かっていることで説明すべきポイントではありませんでした。

このように、前提条件を確かめること、そして前提条件についての意見が異なるなら、根本的な対立点はどこなのか明確にし、それを解決できないか知恵を巡らせることというのが、今回の教訓となります。

*1:欧米の小・中学校で教えている 人を動かす知的論理トレーニン欧米の小・中学校で教えている 人を動かす知的論理トレーニング

*2:論理が伝わる 世界標準の「書く技術」論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス)

*3:自分の考えを「5分でまとめ」「3分で伝える」技術自分の考えを「5分でまとめ」「3分で伝える」技術 (ワイド新書)

*4:対立のジレンマを解消し、調和をもたらす問題解決手法「クラウド」 (1/2):EnterpriseZine(エンタープライズジン)

*5:ただし注意をするべきなのは、ここは本当は意見が対立する相手と相談しながらこの図を作らなければならない点です。下のラインは僕の想像が入っているので、もしかしたら適切ではないかもしれません。