はたらく魔王さま! 和ヶ原聡司, 029
本作では、やはり、魔王と勇者の対立から物語は始まりますが、魔王が勇者に敗れ、平和な現代の日本にたどり着き、戦闘は一端膠着します。こうして平和な国に辿りつくことが魔王と勇者という関係性を再考する契機になっているのですね。
そうこうするうちに物語の背景も徐々に明らかになっていき、7巻の時点では人間と魔族の戦いは裏では天使と魔族の戦いがある、でもそもそも天使とは?魔族とは?といったところまで話が進んでいます。
この話のもう一つの柱は”はたらく”というタイトルから分かるように労働です。日本では学生のうちは比較的楽に生活できますが、社会人になると途端に生きるのが苦しくなります。そうしたつらい時に支えになるのは、人情味があって優秀な先輩だったり、つらくても頑張れば報われるストーリーだったりします。僕なんかはクラナドで遊んだ時にこのテーマを感じて感動しましたね。
ちょっとおもしろいのは、この話で魔王が貧乏なところが共感を呼んでいるということです。たぶんバブルの時代では貧乏さを描いても共感が得られなかったことでしょう。この魔王ほど貧乏な生活をしている人は読者の中にもいないでしょうが、生活に対する不安からこうしたことに関する共感が強まっていると思いました。