子供とネットの付き合い方

都議会で、漫画などに登場する架空の人物についても性表現や暴力表現がある場合には規制する条例が議論されています。

僕はTRPG業界のニュースをチェックしてこのことを知りました。井上純弌*1朱鷺田祐介*2、みかきみかこ氏*3がブログでとりあげていたからです。

その後いろいろ情報を集めてみると、携帯電話やインターネットというツールの浸透によって児童ポルノが制作・流通させやすい環境になっている中、子供とそういったツールの関係を考え直す必要があるという文脈の中で、子供に影響を与える漫画などの規制が問題にされているようです。

僕が読んだのは主に規制反対派のブログなのですが、推進派や中立的な立場の文章も読みますと、反対するにしてももうすこし冷静になったほうが良いと感じました。条例の本文を読まず、まとめサイトだけ読み、この条例が出てくるバックグラウンドに対する理解がないまま反対している方が多数なのではないかと*4

もちろん、僕がこうしてブログを書いているのも規制された社会がつまらなくて息苦しいからではあるのですが、自分の楽しみが阻害されるという観点からだけでなく、全体の文脈を理解した上で自分の行動を決定していきたいと考えています*5

エロゲの受容の仕方

推進派と反対派で決定的に対立しているのは、性的な表現や残虐な表現を受容するとそういったことを実際にしたくなるか否かのように思います。推進派は必ず影響があると信じているし、反対派はそうは思えないと。

エロゲで10年遊んできた身としてはどんだけ残虐で不道徳なエロゲも、そういったものを残虐で不道徳だと思う感性をもって見ているなら特に危険はないという見解を持っています。陵辱もののエロゲで一番恐ろしい、ゾクッとする瞬間というのは、実際に陵辱を行うところよりも、自分勝手な理屈をつけて、そういった行為を肯定するところです。極限状態の人間というのは恐ろしいものだと痛感します。エロゲのほとんどはノベル形式であるため、そういった内面の異常性などは描きやすくなっていますね。具体的な作品で挙げれば一番印象に残っているのは”Swan Song”ですかね。最近やった中では”Real 〜欲望のレール〜”なんかが典型的です*6。まぁそういったちょっと感心する展開も中にはあるものの、典型的なのは痴漢しているうちに恋が芽生えて付き合いだすとかアホな展開であることは間違いなく、そういうオヤクソクを”痴漢に肯定的な表現”と言われれれば理屈としてはそうかもなぁと思います。ただそれでも痴漢に肯定的な表現を”アホでドリームな展開”として受容している限り問題にならないというのが僕の立場です。問題になったレイプレイだって、個人的に一番すっきりするエンディングは被害者の少女に復讐されて主人公がメッタ刺しにされるエンディングです。

ただ、こういった見解は個人的なものでしかなく、万人を納得させられるほどの説得力はないと分かっています。こういったものはどこまでOKなのか、論理的に線を引く事は難しいですね。育ってきた生活環境に応じて個々人がよく思うか悪く思うかだけの話です。例えばヘアヌードでヘアを見せるのが良いか悪いを決める主導的な原理なんてないですよね*7

自分の経験によって立場が完全に異なってしまうなら、あとは推進派と反対派でどっちが数が多いか、どっちが政治力があるかで勝負が決まってしまうんでしょうね。オタクも政治をやりなさいという意見はこうした背景によるものでしょう。

都の条例はそんなにエロくないものすら規制しようとするものなので、単純にアンケートをとれば都民の多数は規制反対になると思います。だってドラゴンボールですら最初のほうはちょっとエロいですもんね。ブルマがパンツをはいてないシーンがありますw最近の作品ではToLoveるはちょっとやりすぎな印象もありますけど、それでもてんで性悪キューピッドや電影少女に比べて著しく基準が甘いということもないでしょう。


ゾーニング

関連してゾーニングに対する考え方にも対立があります。推進派はエロいものや残虐なものを基本的に存在しないほうが良いものだと考えているように思います。一方反対派は、そうしたものを正しく取り扱える年齢になったらそういった情報にアクセスしても良いし、むしろアクセスしたほうが良いぐらいに考えている人もいるでしょう。

そうしたものを正しく取り扱える年齢の基準は18歳となっていますが、本当はその能力は個人差が大きく一律な基準で定めて良いものでもないんでしょうね。高校生ぐらいで初体験を迎える人間も多い中、18歳以上にならないとそうした情報にアクセスできないというのは基準を杓子定規に守るとおかしなことになりそうです。実際のところ、おおっぴらには買えなくても、管理が甘いところから手に入れているのでしょう。また18禁ではないけどちょっとエッチなフィクションが、若者の性的な知識の受容に果たす役割は大きいのでしょう。

18歳が基準では遅すぎるという意味では、細かい基準があっても良いのかもしれませんが、書店での売り方も変わりますし、長期計画で準備を進める必要がありそうです。

さて、では現状でゾーニングはうまく働いているのか考えてみましょう。この件に関しては細かく状況を場合分けする必要がありそうです。

ことエロ雑誌に関しては昔よりもよくゾーニングされているのではないでしょうか。自動販売機では買えなくなりましたよね。コンビニに置いてあるのが問題という考え方もありますが、エロ本のコーナで子供がどうどうと立ち読みしているような場面に出くわしたことはありません。置いてあるだけで表紙がエロくて目に付くというなら、半透明のビニールで包装するぐらいはしてもいいかもしれません。実は条例ではそういったことにも踏み込んでいますね。そのコストは出版社と都とどちらが負担するのかは知りませんが。

漫画喫茶ではあまり対策をとられてないように思います。PCがあり、DVDやストリーミングなども見れるような店では簡単にAVも見れますね。

インターネットに関しては、自宅のパソコンに関してはそんなにフィルタリングが進んでいるようには思いませんが、携帯電話ではよく進んでいるという印象を持っています。自分は使ってないので詳細は分かりませんが。

ただし、このあたり、議論の混乱も見られます。実際の児童が性的な犯罪に加担したり巻き込まれたりするのを抑えるという方向からすると、出会い系サイトへ行けないようにフィルタリングをするのが重要だと思われますが、エロコンテンツが見れるか見れないかは犯罪に巻き込まれるかどうかと関係ないですね。

フィルタリングを誰が解除できるのかというのも問題になります。出会い系サイトの件では子供も遊ぶのにお金が欲しいだろうから、安易に自分の体を売ってしまうのでしょう。この場合子供は同意の上でしているわけで、フィルタリングを簡単に解除できるようだと意味がないのでしょう。

一方、段階的にアクセスできる情報を増やしていくという立場からは、親の責任や自己責任でフィルタリングを解除できたほうが良いと個人的には思います。その情報にアクセスしたくなったということはその情報にアクセスできる準備が整ったのに近いかと。自分がある程度意味がわかることじゃないと検索になんてかけないような。一方的な意見だけじゃなくて多様な意見が集まるのもネットの良いところです。そうしたものに早くから触れるのもこういう社会で生きていくために重要なことかと。

子どもが犯罪に加担しない/巻き込まれないという話と、子供の成長に応じて段階的にアクセスできる情報を増やしていくという話は異なるのですが、フィルタリングに関しては使う技術が同じためか同じ文脈で語られてしまっているようですね。犯罪に加担しない/巻き込まれないという話ではそもそも子どもが同意して犯罪を行っているので、その場合には子供自体に管理させるわけにはいかず、強い規制が必要になるのだと思いますが、段階的にアクセスできる情報を増やしていくという話では子供自体に主導権をもたせ、リテラシーを学ばせることが重要になります。

悩みながら書いたのでいまいちわかりにくくなってしまいました。上に書いたこととは少し論理的な飛躍があるのですが、僕の考えをまとめます。親や社会が制御した情報を与えるのでは、自ら正しい情報を選択できる能力が育たず、子供の健全な育成という観点からは逆効果であると思います。フィルタリングはどうしても子供が自分で判断できない時のみに最小限行うことに止め、ある程度成長した子供にはしっかりとした知識を教えることこそ重要です。具体的にいえば、売春の意味が理解できない年頃の子供には売春の危険性を説明することができませんので、その危険性から掲示板などへのアクセスをフィルタリングする必要があると思われますが、売春の危険性を理解できる年頃になったならばそうしたフィルタリングを外せばよいと思います*8

おわりに

児童ポルノの問題などあんまり考えたくない問題ではありますが、ちゃんと政治をしなくては住みにくい世の中になってしまうというのが最近の潮流のようです。なんらかの行動を起こさなければなりませんが、その行動の前に自分はこの問題をどう思うのか一度まとめる必要があると思いました。現状と基本的な問題意識を把握したつもりですが、今後は実際に具体的にどうしたらいいのかはまたいろんな情報を集めて考えてみることにします。

今回調べてわかったのは、規制推進派というの必ずしも一般の方の意見を集約した存在ではないということです。推進派vs反対派という対立は一般人vsオタクという対立ではないのです。一般の方の立場で、さらに親の立場からしても、規制に反対という立場もあります。子供が楽しんでアニメや漫画を見ているのにわざわざそれを萎縮させるような運動に加担したくないというのは感情的に当然のことです*9

今回、現在18禁とされているわけではない度合いの暴力や性表現を扱った創作物についてまで規制が及びそうになりましたが、これは逆に一般の人に問題を共有してもらうチャンスかもしれません。こうした表現規制はだいたい10年ごとに持ち上がるそうですが、勝ってまた10年楽しみたいですね*10

*1:BLOG希有馬屋 : 非実在青少年規制 - livedoor Blog(ブログ)

*2:都条例に反対します: 黒い森の祠

*3:http://mikaki.cocolog-nifty.com/pori/2010/03/post-e30f.html

*4:3月21日に追記しました

*5:3月21日に追記しました

*6:ちなみにこのゲーム、痴漢に失敗すると警察に捕まって自分の親と面会するところまで描かれます。なかなか痛々しい展開ですw

*7:3月21日、文の順番を入れ替えました。

*8:3月21日に追記しました

*9:3月21日追記

*10:3月21日追記