9S 1-8 + 外伝 葉山透 山本ヤマト
- 作者: 葉山透,山本ヤマト
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 18回
- この商品を含むブログ (44件) を見る
すばらしいSFであり、心躍るボーイミーツガール。
さて絵師の山本ヤマトが好きな僕は9Sにチャレンジしようかしまいかまよっていましたが、ちょうど湧いたラノベを新規開拓しようという気持ちに乗じて既刊を全部読破してしまいました。
絵から入ってますのでまず絵の話をしますと、表紙によく出てくる少女、峰島宙宇(みねしまゆう)が最新刊意外半眼でちょっと眠そうですw。もうひとりよく活躍する少女の真目麻耶は目がぱっちりしていて、山本ヤマトの画風にあっていると思われるので、宙宇のほうはすこし損をしているような気がしてしまいます。まぁ最新巻ではいい笑顔をみせてくれていて、この表紙に惹かれて買った部分も大きいです。
さてタイトルの9Sとは、本文で特に説明があるわけではないのですが、各巻の1ページ目の下に書かれている"The Security System that Seals the Savage Science Smartly by its Supreme Sagacity and Strength."から来ていると思われます。wikipediaから訳をもってくると「その最高の賢明さおよび強さによって野蛮な科学を巧妙に封印するセキュリティ・システム」だそうです*1。組織的な意味ではADEMのことのように思いますが、たぶん峰島宙宇のことでしょうかね。
設定を簡単に紹介すると、峰島勇次郎という天才科学者の残した科学的な遺産をめぐる物語で、勇次郎の娘宙宇が主人公の坂上闘真とともに、遺産を悪用する組織と戦いながら忽然と姿を消した父親を追う物語です。
現在到底実現できないような科学技術を元ネタにしているのは良いことで、異能バトルにも知略がうまれ戦いのシーンがおもしろいです。
ここから先は内容のネタバレを含みます。原作を読みながら驚きたい方は読まないほうが良いですよ。先にお話の構造を知っても楽しめる方は読み進めてもらってOKです。お話の構造は大事ですが、わりとパターンがありますからそこまで重大なネタバレというわけでもありません。
僕はこれを”月姫”的な構図だなぁと思いながら読んでいました。そもそも坂上闘真が暗殺者の血筋でナイフを武器にしているところが、月姫の志貴に近いので思いついたのですが。普段は凡庸な青年の彼を非日常に誘うのが宙宇で、彼女にいろんなことを教わりながらも暗殺者の力で最後は彼女を守るという構図は月姫のようですね。さらに言うと主人公に妹がいる点も同じで、その妹、真目麻耶は宙宇とは別の方向で闘真をサポートします。
このことをもちろんパクリだのなんだのいうことではなくて、しっかりとした構図をもってきていることをわかってもらうための前振りです。この9Sではある意味月姫よりも熱い構造があります(8巻の段階でもはっきりとわかっているわけではないんですが)。まず第一に主人公闘真は勇次郎もしくは宙宇を殺すために生れた存在であるということ。闘真の父、不坐がそのようなことをほのめかしています。古典的な言い方では二つの敵対する家に隔てられたカップルなんですね。二つ目に不坐が妹の麻耶と闘真が引き合わされたのは血を濃くするためという話もあり、妹との関係も複雑です。近親相姦もの…と思うとちょっとエグイのですが…。このあたりの構図は月姫よりもキツイ縛りでより困難な設定になっているなぁと思いました。
すばらしいSFであり、心躍るボーイミーツガールなストーリー。面白かったですよ。このままクライマックスに入るとのことで、あと3,4巻で完結といったところでしょうか。続巻が楽しみです。