うみねこのなく頃にのメタ構造をTRPGリプレイとして理解する

accelerator2008-01-13


うみねこのなく頃に2を読了しました。正直なところひぐらしのなく頃にと比べても完成度の高い作品ではなく、げんなりする演出も多く見られるのですが、それを補ってあまりあるチャレンジスピリットを感じさせる意欲作だったと思います。右の絵はとらのあなの通販サイトから転載です。

物語と読み手の中間に属するプレイヤーの存在

今回は物語の途中で話を俯瞰する立場のベアトリーチェと戦人が登場します。その二人が対決を繰り返しすことで、うみねこのなく頃にのゲームを提案しているように思われるのですが、演出がこなれてないためか、混乱させられます。今回はメタ視点などの考え方に慣れているTRPG者として、TRPGリプレイを例にうみねこのなく頃にの構造を解析してみたいと思います。

通常の物語には2つの階層が存在します。一つは物語で、もうひとつは読者です。読者が物語の中の登場人物に感情移入することで、疑似体験が成立するという構造になっています。
今回のうみねこの鳴く頃には、先ほど述べたように物語を俯瞰する立場の”観測人物”が登場します。この観測人物は読者と登場人物の間の階層に存在し、物語に直接介入するわけではないのですが物語に解説などを加えます。この中間的な観測人物の存在が今回のうみねこの鳴く頃にをおもしろくもし、複雑でわかりにくくもしているように思われました。

この階層構造を理解するために、TRPGリプレイをもってくるのが今回の趣旨ですので、TRPGリプレイの階層構造を紹介します。最初に表を見せてしまったほうが分かりやすいでしょう。

物語の階層 PC NPC
ゲームの階層 PL GM
読み手の階層 読者

TRPGでは、物語全体の設定をゲームマスター(GM)が行い、物語の外のプレイヤー(PL)が物語の中の人物(PC)を操ります。GMもノンプレイヤーキャラクター(NPC)を操り、物語に介入します。それを記録したTRPGリプレイでは読者が存在し、読者はゲームの階層ではPLの視点で将棋の棋譜を読むように楽しみ、物語の階層ではPCに感情移入して楽しみます。

うみねこのなく頃に2を遊んだ方はそろそろピンときているでしょう。先ほど定義した観測人物はTRPGリプレイにおけるGMやPLなのではないかと僕は指摘します。観測人物としてのベアトリーチェがGMで観測人物としての戦人がPL。そして登場人物としてのベアトリーチェNPCで登場人物としての戦人はPCだと考えると、構造がすっきり理解できるのではないでしょうか。

階層に別れた目標

TRPG者はPCの目標とPLの目標を分けて考えます。例えばPCの立場からすれば、性格にもよりますが平和で退屈な日々が一番ですけど、PLの立場からすれば波乱万丈な物語が見たいわけです。完全にPL視点で冒険してしまうのでは感情移入しにくし、平和で退屈な日々はゲームとしてつまらない。平和で退屈な日々を望みながらも波乱万丈の物語になるようにバランスをとって遊ぶことが求められるわけですね。

さて、うみねこのなく頃にに話を戻しましょう。うみねこのなく頃にを読み解く難しさの一つは、GM・PLレベルの目標がNPC・PCレベルの目標とずれていることです。

まずはゲーム階層の目標を説明しましょう。ベアトリーチェと戦人は明確に対立関係にあるので、目標というより勝利条件と言い換えたほうが良いかもしれません。このゲームではお互いの敗北条件を定めていますので相手の敗北条件を満たすことが勝利条件となります。

ベアトリーチェ側の敗北条件:碑文に示された謎が誰かに解かれること
戦人側の敗北条件:魔女の存在を認めること

これらの条件は、基本的にゲーム階層に属するものです。というのも、今回物語階層の登場人物はほとんど死にますが、まだこれらの条件が満たされていないためエピソードは続きますよね。一つのエピソードに収まるような条件ではないわけです。

一方、物語の階層の登場人物たちはそれぞれに目標があります。生き残ること、金を手にいれること、特定の人と恋愛関係になること…それぞれです。NPCとしてのベアトリーチェの目標は、身体を持って復活すること…でしょうか。いまいちはっきりしませんが、ここが理解できると彼女の攻勢をしのぎやすくなるのではないかと思います。

うみねこのなく頃にのゲーム性

うみねこのなく頃には、TRPGリプレイの喩えで言えばPLとしての戦人の立場から、どうやったGMとしてのベアトリーチェに勝てるのかを考えるゲームです。作中で、いくつか問題が示されていますが、そのどれもが、ゲーム階層での勝敗に関わってきます。この問題をより明確に表すために、物語を俯瞰する立場での戦人とベアトリーチェを出したのでしょう。

例えば山ほど密室がでてきますが、これは単純にミステリ的な意味でのハウダニットの問題ですね。このハウダニットが解けない場合、戦人の敗北条件になることに注意してください。

またベアトリーチェが存在しない場合、物語階層の登場人物が犯人になるわけで、これはPCの良識や倫理観に反します。PCの感情とPLの目標を対立させるのは非常にTRPG的な手法ですね。

今回はほとんどベアトリーチェの攻勢が描かれています。ベアトリーチェの敗北条件にまったく迫りません。それはTRPG的に言えばPCの目標を優先しすぎてPL視点が薄すぎる状況に対応しています。これでは勝てないのでPL視点での目標を、PLの存在を用いないでPCに教える必要がありますね。まぁベルンカステルが出張れば、PCにPL視点をもたせてくれますが、話としてそれでよいのかは個人的にちょっと微妙です(笑)。ベルンカステルの存在を認めても魔女の存在を認めることにならないか?

その他 共通点・相違点

PL発言とPC発言

今回ベアトリーチェが赤字で語ったところは真実というルールを導入します。TRPGでいうとNPCは嘘をついても良いが、GMは嘘をついてはいけないというところでしょう。

ルールの把握

TRPGでは全員ルールを把握してから始めますが、このゲームではPL側にルールを知られることは、GM側の即敗北を意味します。GMがNPCを動かすさいに使っているルールが、PLの知っているものだと分かった瞬間にGM側の勝利条件がつぶされます。

まとめ

うみねこになく頃にエピソード2には、物語と読者の中間に属するゲームプレイヤーのような立場の人物が描かれています。その登場人物をTRPGにおけるPLとGMに喩え、その階層構造を整理しました。
うみねこのなく頃にがどのようなゲームで何を考えなきゃいけないのかが整理できたと思います。