ロリータ ウラジーミルナボコフ 若島正
- 作者: ウラジーミルナボコフ,Vladimir Nabokov,若島正
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/30
- メディア: 文庫
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- 作者: ウラジーミルナボコフ,Vladimir Nabokov,若島正
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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ロリータコンプレックスで有名なロリータ。やっっっと読み終わりました。ロリータを読み出したのは7月中だったのに…*1読むのに2ヶ月もかかっちゃいましたよ。こればっかり読んでたわけじゃないですが。ちょっと扇情的なので二つの書影を挙げておきます。僕が読んだのは文庫版のほうです。
記述の意図をさぐっていく
さて、そんなロリータですが、これは読む価値のある本でした。まぁ読むのが大変なので万人向けではないと思いますけど。何がそんなに大変かというと、まずページ数です。550ページ近くあります。次に文章密度です。どのページを見てもびっしり文字がならび、1ページあたりの文字数をカウントしたら一般的なラノベの1.5倍くらいあるんじゃないでしょうか。そして3つめ、これが一番大きいのですが、書かれていることと想像しなきゃいけないことの乖離があります。
本書はH.ハンバート氏の手記という形をとっており、語り手はハンバート氏です。氏が起きたことをそのままに語っているわけではなく彼の意図を反映したものになっています。さらに言うならハンバートは拘留中の被告人であり、この手記は自ら犯した犯罪について語っているものです。うさんくささが分かってもらえるでしょうか?私は清廉潔白です。という人間ほどうさんくさいものはないのです。ハンバートの主張はそんなに単純なものではありませんが。
我々読者は、ハンバート氏が語ることから、事実を構築しなおさなければなりません。読みながら”ハンバートは我々に何を信じさせたいのか”を常に読み取らなければならず、何回も手記を読み直す必要があります。また、出来事を淡々と書くという形式になっていないので、漫然と読んでいると何が起きてるのかすら把握できなくなり、何度も読み返す必要がありました。とにかく、読むのがすごく大変だったんですよw。
本書の魅力
本書はすごくいろんなふうに読むことができます。訳者あとがきでよくまとまってますので、箇条書きで簡単に紹介しましょう。
- 淫らな少女愛を綴ったエロティックな小説
- 文学的言及と語りの技巧に満ちたポストモダン小説のさきがけ
- 絢爛たる言語遊戯
- 大爆笑のコミックノベル
- アメリカを描いたロードノベル
- 狂人に人生を奪われた少女の悲劇
- 伏線がはりめぐらされた探偵小説
- アメリカの一時代を活写した風俗小説
これだけの要素がつまった小説というのはなかなかないのではないでしょうか。
この中の一つ目、”淫らな少女愛を綴ったエロティックな小説”というのが、本書に対する一般的な評価かもしれません。これがでてくるのはわりと前半ですね。ただしあんまり直接的な表現はなく、どっちかというと少女のくつしたの愛くるしさを文学的表現を交えつつ5、6行にわたって説明しているような、間接的で催淫的ものです。
これは冷静に読みますと大爆笑のコミックノベルです。”少女のふとももやら、うぶげやらに何を必死になっているんだこのおっさんは”と文体が高尚になればなるほど笑えます。その自分が好きな時期の娘たちを”ニンフェット”などと呼び始めるのもすごくイタイです。そして彼は、親切にも自分の表現がどのように高尚なのかまで語ってみせてくれます。現代だったら間違いなく痛いニュースいきですねw。
しかし、そんな痛いシーンも元ネタはエドガー・アラン・ポーの作品のオマージュになっていたり、プルーストの失われた時を求めてのオマージュになっていたりと、分かる人にはわかるネタがちりばめられているらしいです。脚注を読むといろいろかかれていますね。教養のない僕には全然わかりませんでしたがw。非常にたくさんの視点から楽しめるものになっています。
探偵小説としても読めるということですが、確かに解答を知ってから本文を読み返すとすごく伏線に満ちていて、ほんと驚きます。僕は漫然と読んでいましたので全然分からなかったですね。ハンバートとロリータの人生を年表にまとめたり、出てくる登場人物をまとめればもしかしたら分かるかもしれませんが、そこまでするのは中々骨ですね。
すばらしい訳
本書の訳はかなり凝っています。まず簡単なところではロリータの口調でしょうか。ナボコフはバスに乗ってくる女学生の口調を研究して書いたそうですが、訳のほうもかなり今風です。実際にでてくるかどうかはともかく「はぁ?あんた頭おかしいんじゃない?」ぐらいの口調ですね。あっそうそうここでちょっと説明を加えておきますけど、ロリータことドロレスは現代のいわゆる幼女のイメージとはずいぶんかけ離れてます。エロゲなんかでよく出てくる幼女のイメージって無垢で弱くて守ってあげたくなり、大人に迷惑をかけない感じですが、このロリータは無知でわがままで大人のいいなりにはなりません。
他にも原文がラテン語まじりなときには、古語を使ってみたりとか、おもしろい工夫にあふれてますね。何ページか忘れてしまいましたが、”紫の上”なんて単語がでてきたのにも驚きました。そういや日本には超有名な幼女愛好者がいましたね、光源氏。
まとめ
本書の魅力のところで述べたように、いろいろな視点で楽しめる作品です。前半はエロさと馬鹿さが楽しかったのですが、後半はハンバートやドロレスの思惑の読み合いなどが楽しくなり、終章付近のミステリ的な展開には目を見張るものありました。ちょっと読むのが大変なんで、覚悟をしてじっくり読んでみてください。