でかい月だな 水森サトリ

でかい月だな

でかい月だな

少年期の正義感が懐かしい、ぜひ中学の図書館に置いて欲しい一冊

みなさんは、親から「友達を選べ」とか言われたことがありますか?
僕はあります。
僕はこの言葉にすごい反感を覚えましたね。”友達を選ぶ”僕は何様なんだ?と。
世間的にみればちょっと悪いことをする奴らの、気持ちの良い性格に僕はあこがれてましたよ。

本作は、自分が友人に崖から突き落とされるところから始まります。
この事件を通じて、自分/突き落とした友人/親や家族/相手方の親や家族/自分の昔の友人/自分の今の友人…いろんな人がいろんな正義感や同情や罪悪感を持っていることを主人公は知っていきますが、知っても受け入れられるかどうかっていうのはまた別だったり…。この心の揺れようがすごく瑞々しく書かれていて、昔のことを思い出しました。

少年の感情は今はもうなくしてしまったものなので、今の自分を投影することは難しかったのですが、主人公が昔の自分のように思えて、引き込まれて読み進めていきました。そのように僕には懐古的に読むしか方法はありませんでしたが、決してネガティブな意味ではなく、その懐かしい瑞々しさを楽しめます。

本書は、文学賞メッタ斬りを読んで目に留まった一冊です*1。そこでは、ライトノベル的な設定を使いながら、深い内容になっているという褒め方をされていたと思います。まぁそれはそのとおりなんですけど、僕は逆にラノベ的なものを期待して読むとがっかりするんじゃないかと思いました。ラノベ的な設定のうまさ(萌えの組み合わせの新奇性や意外性)が売りってわけではありません。本作はファンタジックな世界設定の”意味”をよく考えて作られており、表層的でない設定が魅力です。たとえば邪眼ってなんだと思います?普通は人を呪い殺す視線のことを言うと思いますけど、恨みのあまり、世界を歪めて見てしまう状態のことか?とか主人公は考えていておもしろかったです。

子供のころ、大人が勧める本はどこか道徳的な教訓の影があって気に入りませんでした。でも、昔の自分がこの本に出会ったら、内容に共感できて、きっと気に入ると思いました。そういう意味で、中学生に読んで欲しい一冊でした。