僕僕先生 仁木英之

僕僕先生

僕僕先生

本作は第18回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品です。僕はこの賞のことを文学賞メッタ斬り!で知りました。本作もこの本で褒められていたので手に取りました。この賞の受賞作品もほとんど知りませんね。知っているのは第15回森見登美彦太陽の塔 」ぐらいです。

本作はすごくいい雰囲気の小説であっという間に読めてしまいました。

時代設定は唐で、玄宗皇帝*1の時代です。怠惰な青年王弁が、美少女仙人僕僕と旅をするお話です。

逍遥(ぶらぶら歩くこと、散歩)とか佳肴(おいしい料理)とか、中国ものらしく、難しい言葉遣いがよくでてくるのですが、分からなくても読み進められます。こういう言葉遣いがいい雰囲気を醸し出します。

この話はもともと中国の説話に元ネタがあるらしいのですが、現代的な側面をもっています。なんといってもニート”としか言いようがない主人公に驚きました。今にも「働いたら負けだと思ってる」って台詞を吐きそうな主人公なんですよ。中国の説話にニートがでてこようとは…。

それで、ただニートがでてくるだけだと、現代小説になってしまいますね。しかしそうはいかないところがこの小説のおもしろいところです。この主人公のニートの父親が、この何もなさない息子の考えは無為自然を理想とする老荘の思想と通じるものがあるのではと考えます*2
…おとーさん、怠惰と無為自然は違いますよ!という、読者のつっこみを受け流しつつ、父・王滔は息子・王弁を評判の道士のもとに使いに出します。

そしたら、なんとその道士はツンデレ美少女っ!これなんてエロゲ

こういった設定でして、わりとライトノベル風な配置なんですが、中国のファンタジーなので独特の想像力で物語が進み、新鮮でした。道士の僕僕も格好は美少女ですが、考え方は老成していまして一筋縄ではいきません。

話の筋はわりと単純なのですが、でてくるファンタジーの素材は目新しく、老荘の思想は奥深いものがあります。ライトノベル風味で簡単に読めて雰囲気も楽しい愛すべき小説だと思いました。

その他 どうでもいい疑問や感想

老荘思想小国寡民という概念がでてくるのですが、いま盛んに言われる”小さい政府”に通じるものがありますね。老荘にこんなにも現代性があろうとは…。


物語の後半では封神計画的なものがでてきますが、あれは殷から周が出来るときの話だったような…。ちょっと時代が違うような気がするんですが、そのへんどうなってるんでしょう?*3