ベルカ、吠えないのか? 古川日出男
- 作者: 古川日出男
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/04/22
- メディア: 単行本
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古川日出男と出会うまで
僕がこの本を読むに至ったのは2つの経緯によります。
三島由紀夫賞は、舞城王太郎が受賞したあたりは着目していたのですが、他の三島賞受賞作まで読んでみようという気は起きませんでした。舞城王太郎が三島賞を受賞したのが”珍事”という評価がされていたからだと思います。舞城王太郎が古い文壇に認められたことは喜ばしいけど、”三島賞の他の作品は僕には訴えてこない作品に違いない”、これが僕の三島賞の印象でした。
僕が賞の”懐の深さ”を信用しだしたのは佐藤友哉の受賞からです。知っている作家が受賞したことで、三島賞が非常に身近に感じられ、選考委員の感性を信じて、いい作品に出会える予感がしてきました。
"「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか"で、非常に痛快なことが言われているの引用しましょう。
芥川・三島・直木・山本の四賞を誰が受賞するかということで測られているのは、賞をもらう側の実力ではなく、いまやむしろ賞を与える側の眼力のほうだと考えるべきである。
その眼力がどれほど曇っていないかのジャッジを下すのは、もちろん一般の小説ファンたちだ。江國香織や京極夏彦に今ごろ直木賞を与えるというトンチンカンぶりを、寛大な読者は笑って許してくれているのである。「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか 61ページから引用
三島賞は少し固い賞かもしれませんが、なかなか信用がおける賞だと僕は思いましたよ。
最近の動きとしては、文壇のお堅い体質から自由になろうと、読者の投票で決める”本屋大賞”などが設立されていますね。ちなみにSFの賞である星雲賞も投票で決める賞で、権威とかいうより読者に愛される作品が選ばれているはずです。おもしろい本を探すときに参考にしてください。
本書の著者は、先ほどから引用している”「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか”にて、文体と語りの名手として登場します。内省的な作品に一人称が似合うように、人称とか語りというものは、小説にとって重要なファクターです。村上春樹に対する褒め言葉として”文体がいい”っていうのがよく用いられますよね。すっきりとした文体はそれだけで商品となりうるのです。
イヌの物語
この本は、軍用犬の系譜からたどるウラの20世紀とでもいうべき内容です。
イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?
本書で何度も繰り返される言葉ですが、太平洋戦争で用いられた軍用犬の子供達が、世界中に散っていき、各地でその一生を輝かせます。
先ほど文体の話をしましが、今回の語り手は第三者的な神の視点で、イヌをお前と呼び、力強く話しかけます。たまにイヌがこの神に応え、会話が成立します、”オレカ?””そうお前だ”みたいな感じで、このイヌが素朴で可愛いんですよね。
先ほどイヌの系譜と述べましたが、血が近いイヌが分かれたり交差したり…そこにドラマがあります。非常にたくさんのイヌがでてくるんですが、僕が好きなのは、カナダで犬ぞりを引くことになる北海道犬の”北”やベトナム戦争に駆り出され、名前のとおりの人生(犬生)を生きるDED、それにメキシコのマフィアに飼われ、愛に生きるイヌ、カブロンでしょうか。魅力的なイヌたちの魅力的な犬生にあふれています。
この犬の系譜はロシアに向かっていき、”一人のイヌ”に出会います。そこで何が起きるのか。あるいはまだ起きていないのかw。そんな感じのお話でした。
読みやすさ
僕は本作で初めて、古川日出男を読みました。読み慣れない作家の作品は、そうすんなり読めないのが当然ですが、ハードカヴァーで350ページもある作品ですし、読むのが大変なことは事実でしょう。ちょっと我慢は必要かもしれませんね。
僕の感想は基本的に褒める方向です。”そんなこと言ってまたまた〜”褒めすぎじゃない?って思う方は、こちらの方の感想を参考にしてください。少々ネタバレぎみですが、もうすこし客観的だと思います。
ところで、古川日出男本人が朗読している映像があります。わけがわかりませんがおもしろいのでリンク。
まとめ
イヌでめぐる20世紀。とにかくそのアイデアがおもしろく、でてくるたくさんのイヌたちに愛着を感じます。
変わった読書体験を求めるあなたにオススメです。