四季 夏 森博嗣

四季 夏 (講談社文庫)

四季 夏 (講談社文庫)

いまさら森博嗣…って思いもあったのですが、なかなか面白くて驚いています。

前回の感想から、”天才の描き方”に着目してきました。

今回は四季さんの内部の葛藤というか、相談がでてくるのですが、これは天才を書くときにはわりと避けられる手法なんではないでしょうか。それを見せられると天才の限界が見えますね。でも、ここでうまいのは限界を書くことでよりいっそう四季さんのロジカルな側面を浮き彫りにしているところです。文献の知識だけでなく、生の経験のなさが、自分の弱点であると把握しているところなどに、逆に天才としての説得力がありますね。靴の脅迫状を読み間違えるところもインプットを間違えると、ちゃんとアウトプットが間違ってでてくるという証拠で、このへんもうまいと思いました。

今回はそのように”四季の不足”に焦点が当てられていて、四季が普通の子供のようでした。”なるほどなるほど、それが森博嗣の天才の描き方なわけね…”って思っていたら、最後にびっくり。普通の子供のような行動の全てが、世代代わりする生物の健全性のためのステップとしてつながります。つまり、子供じみた行動が全て一貫した戦略だったわけです。

このあたりの伏線とその回収をみると、やっぱりこの本はミステリなんだと思いました。