オイレンシュピーゲル(1) スプライトシュピーゲル(1)冲方丁

合同企画

これは角川スニーカーと富士見ファンタジアの合同企画です。同じ世界観の二つの物語を違う出版社から販売していこうというものらしいです。…読者の立場からすると何を得するのかよく分かりませんが、こういうお祭り騒ぎは騒いだもの勝ちなのでのっておきましょう。オイレンシュピーゲルのほうはザ・スニーカースプライトシュピーゲルのほうはドラゴンマガジンで掲載されているそうです。

文体について

冲方丁はマルドゥックベロシティでも”/”だの”=”だのが混ざった文体を使用していましたが、今回も全編にわたって使用されています。スプライトシュピーゲルのあとがきに書いてあるのですが、カオスレギオンのころから使っているとのこと。これは最初は困惑しますが、慣れれば案外読みやすいですね。どうも著者は近未来ものを書くときには近未来にあった文体で書きたいという思いがあるらしく、こういう試みをしているようです。

まぁ=の用法は大体明らかでしょう。”ほげはなんたらである”ってかくところを”ほげ=なんたら”って書くとたしかに手っ取りばやいです。とくにこの構造の文章が何度か続く場合には積極的に省略していったほうが見た目にも分かりやすいですね。

あと”+”と”/”に関しては、日本語の読点”、”の代わりに物やことを並列するときによく使われています。読点の場合はアンドの意味でもオアの意味でも使えますよね。たとえば”明日もって行くのはリュック、弁当、バナナ。”と書けますがこれを”明日持っていくもの=リュック+弁当+バナナ。”と書いてしまうのは分かりやすいでしょう。”明日の天気は雨、雪、豚のいずれかだ。”なんていうときも”明日の天気=雨/雪/豚。”…のほうが分かりやすい…ってこれはいまいち説得力ないかなぁ。まぁなんにしろこの記号を使うことでアンドなのかオアなのかは論理構造もはっきりするし悪くないんじゃないですかね。まぁこういうのとは全然関係なくノリで単にAの次にBが起こり続いてCが起こったときA/B/Cとか書いているケースもあってあんまり用法ははっきりしないのですが。

あとTRPGのリプレイばっかり読んでいると頭が劣化するのか、小説読んでいるとき台詞が誰の言葉なのかわからなくなるってのがあるのですが、主語の明示として=を使っているのもなかなか分かりやすいと思いますよ。

して内容は?

う〜ん内容なんですが、まぁガンスリンガーガールですね。Amazonでのレビューでもそのように言われています。要は事故などにより身体にハンディキャップを負った(つまり無くなったり動かせなくなったり)少女が機械の身体を得て凶悪犯罪に立ち向かうというものです。オイレンシュピゲールにもスプライトシュピゲールにも個性の違う少女がそれぞれ3人でてきます。


当然身体を失うような事故、事件にはトラウマが伴い、そこの克服がドラマとなるわけです。著者はマルドゥック・スクランブルの時には一人の少女のトラウマを書くのにものすごい苦労していて*1、そこに好感を持っていたのですが、今回は少女を6人もだしちゃって節操がない感じがしてしまいますね。もちろんさすが冲方丁だけあって、それぞれの少女の内面もそれなりに複雑に書かれてあります。オイレンシュピゲールのほうはなかなかですね。しかし正直スプライトシュピーゲルでは鳳(アゲハ)はともかく、乙(ツバメ)と雛(ヒビナ)に関しては、キャラクターが典型的かつ単純なためか内面が見えないですね。”ライトノベルだし〜そういうのもいいんでね?”と、内面を書かないような手法もありかとは思うんですけど、その場合売りは何かって話になります。設定もそこまで凝ってない感じです。SFのアイデアは類型的だと思います。冲方丁がこういうネタで書くとしたら深い人物描写を武器にするのがいいと思うのですけど…。


人物に関してはオイレンシュピーゲルの3人組みのほうが好きですね。特に紅犬の陽炎が性格が一筋縄じゃいなかくていいですね。そうそう、少女たちは色で特徴づけられていて、たとえばオイレンシュピゲールの表紙の子は黒犬(涼月)です。もう一人の白犬は夕霧という名前です。スプライトシュピーゲルのほうは表紙でいうと左から青炎、紫炎、黄炎なんですが(髪の色と同じだから分かるか…)、色と特徴の印象はやはりオイレンシュピーゲルのほうが一致してると思います。スプライトのほうの青い子はけっこう特攻するタイプなんですが、クールな印象のある青です。赤のほうが分かりやすいと思いますね。オイレンのほうの陽炎はいつもはやる気がなくともスイッチが入ると激しいのでやっぱ赤かなって気もしますし、オイレンのほうでつかっちゃってるんで赤が使えないのは分かるのですが。…と思ったけど青のツバメは内面が冷めてるからやっぱ青でいいのかなぁ。


スプライトシュピーゲルのほうでおもしろいところは原理主義、民族至上主義などによる、テロを題材に取り上げているところですね。これはオーストリアのウィーンの話なんですが、主人公たちが日本名なのにはちゃんと設定があり民族や文化なども物語の題材として取り扱っています。こういう難しい問題に切り込むところが著者のいいところだと思うので、今後このあたりに着目していきたいですね。

2作品の関係は?

今のところ明らかにはされてないんから僕の予想なんですが、この二つの物語時間軸が違いませんかね?スプライトシュピゲールのほうが技術レベルが上がっているように思うし、敵役の情報もよく分かっています。これは時間の経過を意味してるんじゃないかなぁと思うのですがいかがでしょう。物語が進んでいけばわかると思います。

お勧めなのか?

難しいところです。ミドルティーン向けのライトノベルということを作者が意識しているふうもあり、人物描写が少し類型的なのが気になります。正直このままではガンスリンガーガールもどき(ガンスリンガーガールはすごいおもしろいのだけども)になる可能性もいなめないのですね。マルドゥック・スクランブルやヴェロシティとはすこし似てる部分もあるんですが、同じ楽しみ方を期待すると肩透かしを食うかもしれませんね。しかし、この作品がどうして2つの物語が必要なのかなど。まだ明かされてない部分があり、そこに期待は持てそうです。また、文化や思想を問題にしているのはなかなかおもしろいところだと思っています。

冲方丁は今までとは違うおもしろさをみせてくれると僕は期待しています。

おとなりさんたち

おとなり日記でずいぶんいいことが書かれているのでリンク集です。

http://d.hatena.ne.jp/iris6462/20070206/1170762244 僕とは逆に内面が良く描かれているというご意見も…気になる人は自分で読んで確かめたほうがよさそうですね。
http://d.hatena.ne.jp/ds44/20070207/p1 ラノベよりなのは著者の渾身のギャグ?深いw
http://d.hatena.ne.jp/ds44/20070207/p2 たしかに、あの巨大兵器は馬鹿馬鹿しいけど…原理主義の人々が腹にダイナマイト巻くのと確かに通じるものがあるかもなぁ

*1:ストーリー創作塾参照