ブレイブストーリー 宮部みゆき

ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)

ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)

ずっと読んでいたブレイブストーリー。ついに読み終わりました。
このブレイブストーリー7月8日からアニメーション版が映画で上映され、今話題の作品ですね。公開1週間前に読み終わるとは狙ったようなタイミングです。


この話はハードカバー、愛蔵版、角川文庫、角川スニーカー文庫4種類ぐらいでてると思います。
僕はいつもの文庫になったから読んでみるかって精神なので、ハードカバーと愛蔵版のほうはあまり知りませんが。


僕が読んだのは角川文庫からでているもので上中下の三巻で構成されます。(上の表紙)
角川スニーカーのほうは4巻で構成されアニメ版のキャラクターデザイン(千羽 由利子)と同じ、かわいい挿絵がついています。(下の表紙)


そろそろ感想のほうにうつりたいのですが、これはなかなか深い話だと思いました。
読む前は、宮部みゆきがゲームにはまってその設定でちょろちょろと書いたものかと思っていたところがあったので、意表をつかれましたね。
あらすじとしては、

僕は運命を変えてみせる――。勇気と感動の冒険ファンタジー

小学5年生の亘は、成績はそこそこで、テレビゲームが好きな男の子。大きな団地に住み、ともに新設 校に通う親友のカッちゃんがいる。街では、建設途中のビルに幽霊が出るという噂が広がっていた。
そんなある日、帰宅した亘に、父は「この家を出てゆく」という意外な言葉をぶつける。不意に持ち上がった両親の離婚話。これまでの平穏な毎日を取り戻すべく、亘はビルの扉から、広大な異世界――幻界へと旅立った!
(角川文庫のサイトより転載)

というファンタジーものとしてはオーソドックスなものですが、
ファンタジー世界が現実逃避の場所ではなくむしろ現実を色濃く反映した場所として描かれており、一筋縄ではいきません。

まず驚かされるのはこの話はファンタジー世界(幻界:ヴィジョン)に行く前の現実世界の話がすごく長いのです。そこでは不条理な現実と大人の都合にひっぱりまわされる主人公、亘が描かれます。通常、こういう話では動機の説明があってすぐファンタジー世界に行ってしまうことが多いと思うのですが、381ページにもわたって現実界の話が書いてあります。381ページといえば文庫一冊分ぐらいありますね。
それほど長く動機を説明することがあとで生きてきます。
この不条理な運命を変えるということが、何を意味することなのか…そこは読んでのお楽しみです。



ところで、軽くネタバレなんですが、この幻界というのは主人公達の心のありようによって姿を変える世界と説明されます。この話を聞いて僕はすぐに涼宮ハルヒ*1を思い出しました。自分の心のありようで世界が変わってしまうってのはそのまんまですね。涼宮ハルヒのほうの世界はほんとに現実世界なわけですけど。
人は通常、悪い気持ち持ってますよね、差別だったり、ねたみだったり、残虐性だったり…。
そういうのが世界に反映されたとしたらどうなるのでしょう。
これがあなたの心を反映した世界ですよって言われて見せられたものが、血で血を洗う戦争地帯だったらどうしましょう。
知性の高そうに見えるものが、ほかのものをいいようにこき使う世界だったらどうしましょう。
あなたは受け入れることができるでしょうか。


このように、このブレイブストーリーで扱っている問題というのは、そう簡単ではありません。
また、僕も当然自分がそういう悪い気持ちもっていることは頭では承知してますが、このように物語を使って問題提起されると、深く心に残ります。
僕の好きな舞城王太郎の言葉「ある種の真実は嘘でしか語れない」(だったと思う)なんて言葉もこの本を読んでいて思い出されましたね。


この本は自信を持ってお勧めできる一冊です。(三冊ですかな?)