空の境界 奈須きのこ

空の境界 上 (講談社ノベルス)

空の境界 上 (講談社ノベルス)

空の境界 下 (講談社ノベルス)

空の境界 下 (講談社ノベルス)

上下巻を2日で読んだ。早いのか遅いのか…。僕にしてはけっこう遅いペースだった。


下巻の帯には
「これぞ新伝綺ムーブメントの起点にして到達点」
とあるが、
まさしくその通りだ。

文体に関してはこの本ってぶ厚いわりに飛ばして読めない。風景描写ばっかりの本とか展開がよめる本はばんばんとばして読むのだがこの本でそれをやろうとしたら全然話がつかめなくなってしまったためけっこう真面目に読んだ。奈須きのこの世界観については月姫Fateもやっている僕は予習も十分だったのか特に混乱することもなく読み進めることができた。読んでいるうち、西尾維新が苗字にこだわるのってコレの影響か?とか思った。殺人感なんかも西尾維新は近いことを書いていると思う。まさしく起点なんだなぁ。(西尾維新は別に伝奇ではないと思うけど)あと、文体はゲームと違って無駄が少ないと思う。(ゲームでは画面全体に死とか並ぶけど小説ではそういうのはない)


到達点ということに関してはなんにしろ構成が見事だ。物語中の時間とか場面は読む順とけっこう前後するのだが、話の順番としては僕は読みやすく思ったし、荒耶が倒されたあと式と幹也の話に収縮していったのもいい流れだと思う。


キャラクターでは織がかっこよくていい。幹也は普通なんだけどその分もっとも謎だなぁ。彼の起源は何のベクトルもない普通とかなのかも。正直彼に感情移入するには難しい場面がいくつかあった。あまりに冷静で正論だ。いつもはそうでももっとみっともない主人公のほうが感情移入できるかも。まぁ感情移入はできてもできなくてもまぁいいんだけど。


僕も月姫Fateとやってきたが、小説という形式はゲームにない完成度がある。しかし空の境界がゲームだったら…とか考えるとそれもあり、というかむしろ面白いかもとも思う。


この小説をでの幹也と織と式の関係はけっこう危うい。もしバランスがちょっと傾いたらとか想像したくなる。それが月姫というゲームを生むもとになったのではないか。先にゲームをやっているかもしれないが、いろんな可能性を考えたくなる。


小説はこの形式にはむかない。アナザーストーリーは原作あってのものなのだと思う。Aという人物が死んだとして、その人物が死ななかったアナザーストーリーができるのはその人物が死んだからである。小説では死んだ可能性と死ななかった可能性は並列にはならない。それがもしなったとするなら、それを可能にするメタストーリーが必要になると思う。(例えば、死んだ話と死ななかった話を夢としてみるとか)


しかし、このいろんな可能性の追求はいろいろ議論を巻き起こす。例えばKanonではあるヒロインを助けたとき他のヒロインは助からないのか?という問題が発生した。この問題はFateでもセイバーと凛シナリオでは桜は助からないという形でも現れる。


いろんな可能性があってもいいと思うんだが、その可能性から一つの可能性を選び取ることって大事なんじゃないか。特にエロゲーマーにとっては。君の望む永遠が傑作なのは結局どちらかを選ぶからだ。
どうも話が脱線してしまったが、空の境界も小説としてよくできているが、ゲームにしてもきっとおもしろかったのだろうという話。


あと思うのは式、織、幹也の関係は月姫でも繰り返し論じられているテーマだし、そういう基本的なテーマを繰り返し考えているのは面白い。


解説の笠井潔の言うことも現状をよくまとめているし、すごくいい買い物だった。

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