古市くん、社会学を学び直しなさい!! 古市憲寿
- 作者: 古市憲寿
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/10/18
- メディア: 新書
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物理学で理論が成功するのは、大まかに以下のような理由によると思います。
- 現象が人為に左右されない
- 定量的な観測が容易
- 還元主義的な考え方でうまくいくことが多い。つまり、簡単化された理想的な状況で考えた理論をその組み合わせとして複雑なシステムに適応してもあまり外れない。
で、一方人間の社会は以下のような特性があるので、人間の考えた理論が予言性を持つのは一般に難しそうです。
- 現象が人為に左右され
- 定量的な観測は容易でなく
- ミクロ的な理論とマクロ的な現象につなげないことが多い。
1、2は比較的明らかですが、3は非自明ですね。これはどういうことかと言えば、相互作用の仕方が物質より複雑だということかもしれません。二人だと好きと嫌いしかなくて、近づくか離れるかだけだけど、三人になると三角関係が生じるとか……。まぁ実は物理でも一般に三体間力があると理論予測は難しくなる事情は同じなんですが。
最近、「古市くん、社会学を学び直しなさい」という本を読みまして、そこではいろんな社会学者がこうした理論の限界について語っていて面白かったです。
特に、一番ハッキリと限界を語っているのは、上野千鶴子でした。彼女はこうしたものの予言性なぞほとんどないと言い切っています。こうしたものは人間にとって分かりやすいかどうかが、一番の関心事で真実かどうかは二の次だということです。本当か嘘かじゃなくて、納得しやすいかどうかが第一基準だから、予言力はないと切り捨てます。
他の人はもう少し穏やかな態度ではありますが、だいたい似たような考えではあるようで、社会学の文脈では、理論の予言力を信じている人はいないようです。これはマルクス主義の失敗を見ているからかもしれません。(僕は詳しくはありませんが)あんなに強固に思えた理論の予測(アメリカは滅びてソ連が台頭)が完全に外れています。
ただ、こうした理論には別の役割があると指摘する人もいます。大澤真幸です。彼によると、物事を体系的に深く考えると、逆にその体系から逃れることができるということを指摘していました。つまりマルクスを共産主義を肯定する文脈ではなく、資本主義を批判する文脈でみると非常に良いことを言っているということです。
物語論でいうと、神話に構造が似てることを言うより、似てないものを探すツールとして使う感じでしょうかね。そうすることで何か新しいものを生み出す手助けができるかもしれない。
2年後に発売される商品を、今のマーケティングを元に行う話では、今のマーケティングを使って、逆に今流行ってるものを避けるという使い方もできるのかもしれません。今流行ってるものが2年後も流行っていることはほとんどないとすれば、それはそれで一つの指針を与えるかも。
関連することを「古市くん、社会学を学び直しなさい」の中で宮台真司がロバート マートンという人の言説を引用する形で話していました。社会学ではよくアンケートをとって統計的に分析して結論を出すのですが、比較的自明なことを証明するために、アンケートを使うなというんですね。その自明な仮説では説明できないことを探すためにアンケートを用いて、それで新たな仮説を作るのが、アンケートの良い使い方だ、と言うんです。これには僕もなるほどと思いました。
こういう風に理論を肯定的に使うのではなく、新たな見識を得るためのたたき台として使うというのは、なかなかおもしろいですね。
(上記、紅茶さんとこの掲示板に書いたことの転載)