るいは智を呼ぶ 暁WORKS

るいは智を呼ぶ 通常版

るいは智を呼ぶ 通常版


読ませるギャルゲでしたね。練りこまれたシナリオの正統派ノベルゲームでした。

どーしようかな、これ言っちゃうと少々ネタバレなんですが、驚くべきことにスタートして選択肢を一つも迎えないままエンディングを迎えます。いつになったら選択肢が出てくるのか〜と待ってたんですけど、結局ないままでしたから驚きました。

しかし、これは裏を返せば単純なクリック作業をそこまで繰り返させるほどのシナリオだったということです。

そのお話を少しだけ紹介します。主人公、智はある事情で女装をしているのですが、死んだはずの母からの謎の手紙に導かれ、るいという少女に出会います。その出会いをきっかけに6人の少女(女装含む)が溜まり場に集まって、お互いが抱えるさまざまな困難を克服していきます。

少年にありがちな夢として、仲間と秘密基地に集まってなんかしらの悪の組織と戦うというものがありますが、この作品ではそれを少女でやっているのがおもしろいと思いました。また、いわゆる学園もので”部活”っていうのはこうした溜まり場や秘密基地的な側面があるなぁと涼宮ハルヒなんかともちょっと共通点を感じましたね。

選択肢のないゲームの何がこんなにも我々の興味を牽引するのかというと、やっぱり”謎”だと思うんです。このゲーム、仲間にも自分にも謎があり、それがだんだん解けていきながらも、なかなか全容を見せず、最後の最後まで物語をひっぱります。このゲームは、泣けるとかそういうことではなく、伏線が綺麗に張り巡らされてそれがうまく回収されているという意味で”シナリオがよくできています。

その”犠牲”って言ってしまっていいのかどうかわかりませんが、ネタを小出しにするために、つまり小さなネタバレを大きなネタバレの前におくために、結果的にテキストを読む順番が固定されてしまっています。このゲームでは極端に選択肢が少なく、さらにその選択肢の多くが最初には選べません。

TRPGの文脈では、選択肢と葛藤がセットで考えられることが多いと思いますが、ノベルゲームの選択肢は読むテキストの順番の制御という役割も強く持っていますね。これはノベルゲームというよりもっと強くギャルゲーに特徴的でしょう。つまり同じスタート地点から複数人のヒロインを攻略するということは、エンディングのあとスタート地点に戻ってくることを意味し、それによって前には選ばなかった選択肢を選ぶことができるというのが本質的です。こういった選択肢はプレイヤーを悩ませるために置かれるのではなく、単に情報の制御、ネタバレの度合いの制御の意味をもっています。

ちなみに、この構造をもっとも綺麗に使っているのが、今やもうバイブル的な取り扱いとなる”月姫”でした。アルクウェイドやシエルルートでは、派手な事件の印象で読者の興味をひきながらも事件の真相は明らかにならない。そしてのその後の一見地味な遠野家ルートで事件の真相が知らされます。このるいは智を呼ぶもまさしくそうした構造になっていました。

TRPG者としては、この”情報の制御としての選択肢”をもうちょっとうまく使えるとおもしろくなるかなぁなんて思いました。

あっそうそうシナリオの話ばかりしてしまいましたが、絵も個人的には印象的でした。このゲームの原画はさえき北都が描いています。知らない方も多いかと思いますが、僕は絵を見た瞬間とらいあんぐるハート2のことを思い出して非常に懐かしい思いにとらわれました。ギャルゲーの絵っていうのは、誰でも…って言うと言いすぎですけど、あまり技術がなくても色を塗れる工業製品的なところがあると思います。このさえき北都の絵なんてまさしくそうだと思うのですが、それでも5年以上ぶりにみて、同じ原画家だと気づけたことに、奇跡を感じてしまいます。まぁw奇跡って言葉の選びは我ながらどうかと思うのですが。

いやーほんと久しぶりに充実した読後感を感じたギャルゲーでした。すごく新しいセンスがあるかというとそうではないんですけど、やっぱりこういう作品は好きですね。暁WORKSあかべぇそふとつぅの姉妹ブランドですが、あそこにはまだまだおもしろいゲームが眠ってそうだと思いました。