ゼロ年代の想像力 宇野常寛

ゼロ年代の想像力

ゼロ年代の想像力

舞城王太郎ディスコ探偵水曜日の感想を書いたときに、この本へのリンクをはったら、ネレさんに「今度読んでみようと思います」といわれてしまった。でも実は僕が読んでなかったので焦って読んでみましたw。

感想としてはけっこうおもしろかったです。論旨もしっかりしていて分かりやすいですし。

エロゲに対する…というかエロゲオタに対する言い方がちときついのですが、言っていることは一理あると思います。エロゲは基本的に何か弱みのある女の子を助けてあげてセックスするという形で成立していると思いますし、その暴力性に無自覚に草食動物の振りをするのはいかがなものかと思いますね。

でもまぁ個別の作品論としては、泣きゲーのメッカであるKeyが全年齢向けの方向性に行ったのは間違いないですし、エロゲの日常シーンは受け攻めでいうならヒロイン×主人公という風に主人公が受けなものが好まれますから、セックスと権力の話をあんまり一面的にみちゃっても大事なことをとりのがすのではないでしょうか。最近のエロゲ論壇の動向はあんまり追ってないのですが、オタクとセクシャリティが流行ったのはやっぱり戦闘美少女の精神分析が出たあたりで、それ以降特に盛り上がりはないと思います*1。そういう意味ではオタクとセクシャリティの問題は一面的にすら省みられることがないので、それはそれで問題かもしれません。あと最近の作品はけっこう単純な図式に落ち着いちゃって斬新な男女関係が描かれないか、描かれているものが人気にならないっていうのもあるかもしれませんね。

まぁあとは田中ロミオ山田一)の家族計画なんかは、このゼロ年代での想像力でも注目されている擬家族を扱ったもので先進性がありますし、Fateに関してはバトルロイヤルものとして注目するのではなく、2話目と3話目で決定的に別の立場に立たされるものとして見ても面白いかと思いますね。立ち位置による正義の違いをこれほどまでの落差で体験できる経験はありません。

個々の作品を見ればエロゲにもいろいろあります。そのへんひとまとまりにされるのはファンとしてもにゃるものもありますが、まぁエロゲの話をするのが本書の目的ではないし、良いのではないでしょうか。

本書とはあんまり関係ないエロゲのことばかり述べてしまいましたが、本書のいいところは、僕みたいなオタクがあまり注目しないメディアでの重要な作品を取り扱っているところですね。僕はもうほとんどテレビを見なくなってしまったので、テレビドラマでのおもしろい作品が取り上げられているのは勉強になります。宮藤官九郎とか好きなんですけど、僕の場合テレビだからこそ逆にあまり見ないっていう変な習慣になってますね。仮面ライダーの変遷とかも面白かったです。仮面ライダーって日曜の朝早くやってるじゃないですか、あんな時間にやられても見れませんが、なかなかおもしろい方向に進んでいるみたいですね。

ところで、僕は少年ジャンプを読んでいるのですが、終わるマンガと終わらないマンガの差がよく分からなくなってきてます。設定が一ひねりしてあったり、絵がうまいマンガを僕は評価するんですけど、そういうマンガって最近あんまり生き残らない気がします。僕はこれを”最近のガキは見る目がねーなー”と思っていたんですが、そうではなく”単に僕の感性が古いのだ”という可能性を考える機会にもなりました。

親や先人が生きる意味や戦いの意味を教えてくれる、オールドスタイルの話が若者には子供騙しに見えてしまうのかもしれません。現実ではそんなこと誰も教えてくれないし分かりやすい勇者様への道なんてありません。そういう世界観で何を描けばいいのでしょうか。ジャンプで勝ち残るのって大変ですね…。

僕はToLoveるとか結構好きなんですが、あの分かりやすいハーレムものを女の子が作者の人形すぎて、気持ち悪くて好きになれないと子供が感じているなら、それはそれで正しい感想でしょう。

僕は今まで子供の価値観を過小評価してきてしまったのかもしれませんね。ちょっと反省しました。

僕はTRPG者ですので、TRPGと結びつけて考えてしまいます。TRPGで使われるフォーマットというのはけっこう古いものが使われていてもっともオーソドックスなものでは、王様やら依頼主やらに問題を与えられて、それを解決していくことで社会的な地位をあげていき、それが自己実現となっているというものです。

ダブルクロスなんかが新しく感じられるのは、否応がなく戦いに巻き込まれて、勝ち抜くためには強くなくてはならず、しかし自分のあり方を人とのコミュニケーションで作っていかなくてはならないところにあるのかもしれませんね。

*1:あったらごめんなさい、あんまり注意して追ってません