円環少女 1-8   長谷 敏司 深遊

円環少女 (角川スニーカー文庫) 円環少女 (2) 煉獄の虚神(上) (角川スニーカー文庫) 円環少女 (3) 煉獄の虚神(下) (角川スニーカー文庫) 円環少女 (4) よるべなき鉄槌 (角川スニーカー文庫)
円環少女(サークリットガール)〈5〉魔導師たちの迷宮 (角川スニーカー文庫) 円環少女(サークリットガール)〈6〉太陽がくだけるとき (角川スニーカー文庫) 円環少女(サークリットガール)〈7〉夢のように、夜明けのように (角川スニーカー文庫) 円環少女    (8)裏切りの天秤 (角川スニーカー文庫)

円環少女、最初に意識したのは紅茶さんのとこのコメント欄で褒められていたからのような気がします。もともとラノベサイトを巡っているときにも目に付く名前だったので気になっていました。このたび既刊をすべて読了したので感想を書こうかと。

ファンタジーにしても一風変わった世界観

本作は現代を舞台にした異世界の魔法使いとこの世界の特殊能力者の戦いを描いたものです。設定上の面白みとしては、この世界の住人が魔法が観測すると、その魔法が消去されるというものでしょう。一般人が異能者の存在に気づいていないという設定は数あれど、それは異能者側がうまく立ち回ってることのほうが多いと思います。こうやって一般人が異能に対して強い耐性を持っているという設定はおもしろいですね。

キャラクターの魅力

主人公、武原仁と異世界から来た魔女、鴉木(あぎ) メイゼル、そしてこの世界で魔法にめざめた倉本きずながこの小説の中心メンバーです。この中で、特にメイゼルの言動がおもしろくて笑わされます。
彼女は小学生なのですが、嗜虐的(サディスティック)な性格をしていて、よく仁を追い込みます。幼い子に責められたいという欲求は、それなりに一般的なのか、これ自体はよくある設定なのかもしれませんが、メイゼルの小学生としての世間知らずさや魔法使いとしての誇りなどが嗜虐的な台詞に深みを与えていて、単にそういう男性の欲求を満たすだけのとってつけたような嗜虐性ではないのが好感触です。

仁の大人だけれども煮え切れない理想と、メイゼルの魔法使いとしての誇り、きずなの望むもの、これらのズレが物語をドラマチックにしていますね。

学生運動

円環少女は現在8巻出ています。大まかな話にわけると、1.バベル再臨、 2-3 煉獄の虚神(上下) 、4-6 よるべなき鉄槌 魔導師たちの迷宮 太陽がくだけるとき、7 夢のように、夜明けのように、 8 裏切りの天秤 と分かれます。

この中の4−6で学生運動のエピソードが出てくるのを個人的には不思議に思いました。著者の長谷敏司は74年生まれだそうです。学生運動は60年から70年くらいでしょうか。自分の生れる5年前とか10年前のことにどういう興味で挑んだでしょうね。だいたい自分の親の青春時代にあたる出来事なはずです。僕はもうちょっと後の生まれなのですが、あんまり親の時代を総括したり、何か一方に組した政治的な意見を持つことに抵抗があります。そういう意味でなんでこのネタをもってきたのか不思議に思いました。どういう思いいれがあるのでしょうか。

この濃厚な昭和の香りは近年のライトノベルには珍しいですね。

不真面目度

ちなみに7巻は短編が連続しているのですが、今までの巻のシリアスさの反動か他の巻にない不真面目なノリで楽しかったです。今までもシリアスな中に不思議な馬鹿馬鹿しさが込められていたのですが、この7巻をみると作者はほんとはこういう馬鹿馬鹿しい展開のほうが好きなのかもと思ってしまいました。7巻は特にオススメですね。

まとめ

設定とキャラクター描写がすばらしく、楽しい作品です。個人的にはこの作品のもつ昭和な雰囲気はライトノベルには珍しいと思うし、作者がそこに思いいれがあるならもう少し書いて欲しいです。全体的にシリアスでギャグが不足しがちですが、それを補うように7巻があるので、読み手のほうでバランスをとりましょう。