ご主人様と呼ばせてください サタミシュウ

ご主人様と呼ばせてください (角川文庫)

ご主人様と呼ばせてください (角川文庫)

前作が非常に気に入っていたので続刊である本書を手に取りました。

本作のおもしろいところはSMを題材としているのに主要な登場人物が3人いることです。女性をあえて”奴隷”と呼ばせてもらえば、ご主人様と奴隷とご主人様の黒幕…この三人で話が進んでいます。

前作ではご主人様の立場であった主人公は今度はご主人様の黒幕に立場を変えます。前作のことを知っているものとしては、ご主人様の困惑もあわせて楽しめるという一粒で二度おいしい作りですね。

さてさてここで”ご主人様”とか”奴隷”といった言葉を簡単に使わせていただきましたが、本作のすばらしいところはこのご主人様と奴隷の関係性ができるまでの描写に紙面の多くを割いていることです。

僕はよくギャルゲやエロゲをやりますが、それらでよく指摘される問題は”恋愛の始まりが描けていない”というものです。よくある設定の幼馴染などでは顕著ですが、ギャルゲは告白はしてないけど両想いな状況から始まることが多いですね。片方が恋をする瞬間や恋をする積み重ねはあまり描かれません。敢えて言うなら主人公がヒロインに恋をする過程を描いているのかもしれませんが、ゲームという媒体である以上主人公の心情描写が煩いのは感情移入を妨げる気がします。…といったわけで、恋愛を扱ったものですら、実はあまち描かれない恋の始まる過程、これが描かれているのが本小説のように思います。

まぁ”恋”っていうとちょっと違うんですが、本書でご主人様が認められていく過程は説得力がありました。まず、ご主人様は自分の知らない面を教えてくれるんです。この理解されているという感覚。そして、どんなときでも自分から興味を失わない愛でられている感覚。この二つがご主人様と奴隷という関係が成立するに当たって大切なことのように思いました。

また、エロゲの例を出しますが、エロゲなどでは金や権力にものをいわせて無理やりご主人様と呼ばせてしまうケースが多いですね。これでは非常にうすっぺらい関係しか成立しません。本書のタイトルが秀逸なのですが、ご主人様とは無理やり呼ばせるものではなく、本人の意思で呼ぶものなのです。

SMについて熱く語ってしまいましたが、本作はそれだけの魅力があります。オススメします。ぜひ前作からお読みください。