らくえん

らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~

らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~

紅茶さんオススメのらくえん*1、全イベント読了しました。共通ルートから各ヒロインルートに入っていくタイプのエロゲーで、たぶん千倉紗絵がメインヒロインだろうなぁと思うものの、シナリオ間で大きく軽重が異なっていたわけではないので、短編をたくさん読んだようなそんな感覚です。

全体的なこと

かなりおもしろいエロゲでしたね。

まずエロゲ作成現場そのものをネタにしたってアイデアがいいです。これはあとでもうすこし詳しく触れます。
そして音楽とか演出とかのセンスが良いです。エロゲには珍しくギターだけのBGMが多く使われていて、これがなんともせつなさや追い詰められた感じ、気合ののった感じをうまく演出しています。台詞に関しても双子が同時に別のことをしゃべるところなどの演出が見事で非常によくはまってました。
Something Orange様で触れられているように*2、フラグ管理や既読判定の不透明さがあり、そこは少々いらつきますが、それを補ってあまりある作品であったと思います。

学生から社会人へ購買者層が変わったこととテーマの変遷

エロゲっていのはヲタの在り方と非常に密接に結びついています。エロゲでまず感情移入させなきゃいけないターゲットは、ヲタなのです。そのヲタの強い感情の一つは”ダメな自分をなんとかしたい”ってものですね。
このテーマはいつごろから現れたのか。僕は泣きゲーばかりやっていたので、その経験からしかものが言えませんが、keyのCLANNADあたりからこういったテーマを感じるようになりました。それまでのトラウマを抱えたヒロインがかわいそうで泣けるものから、少し変化してきているのを感じたのを覚えています。このテーマは学生よりも社会人に受けが良いのではないでしょうかね。購買者層の成長を見越してのマーケティングだと思います。
本作品ではエロゲという卑近な例を使っているので、そのなんとかしたいダメさが非常に伝わりやすかったです。根気の要る仕事をコツコツと行い、作品を完成させることは、ただおもしろいものを消費したいというヲタの苦手とすることなんですよね。先輩(美柴可憐)が仕事ができるという設定を持ってきて、なかなか仕事や勉強の進まない主人公との対比が鮮明です。

個別ルート雑感

特に推奨クリアー順序などないと思いますので好きに攻略すれば良いと思います。
僕は、杏→美柴可憐→亜季→御守みか→千倉紗絵 という順でした。

杏は特に狙ったわけでもなかったのですが、中途半端な選択を繰り返したせいか最初にたどりつくことに…。しかし、共通部分のおもしろさに比べて後半の恋愛部分があまりにオヤクソクな展開で、すこしテンションが下がります。
このあたりエロゲーのポテンシャルの高さであり、限界でもありますね。どんなお話、どんな設定をもってこようと、最後にヒロインと結ばれたり結ばれなかったりする結末をつければ物語として一応の体裁を保てるということです。それは設定やテーマがどんなに難解だったり前衛的だろうと、女の子がかわいければヒットさせることができるというエロゲの強みです。しかし、他の部分がおもしろい場合、”恋愛要素いらね”と余計な部分ができてしまいやすい気がします。

共通部分の美柴可憐の台詞はクリエーターとしての態度を教えるものもあり非常におもしろいですね。この先輩に引っ張らっぱなしのだらしのない主人公でしたが、ヲタをやめる覚悟で自分の作品を出したっていうのが英断だったんでしょうね。彼女の目にとまってよかった。ただ、美柴可憐シナリオは個別に入るとご都合な展開でこれまたいまいちな感が…。またこの先輩と対等の立場のパートナーになるっていうのがこのシナリオの肝だと思いますが、少々説得力が欠けた感もありますね。結局常に可憐にイニシアティブをとられるという構図は終始変わらなかったと思います。

案外おもしろかったのは亜季ルートですね。エロゲの声優になるための苦労話ですが、主人公のほうが先に夢にむかって歩き出したのに、分野は違えど後ろから追われる構図になります。結局主人公は何したわけ?という思いもなきしもあらずですが、亜季の歩む道そのものがおもしろいかったのでまぁよし。ちゃんと家から出てって偉いですね。

御守みかシナリオは、主人公の出す結論がなかなかおもしろい。可憐シナリオは対等なパートナーになる話なのに対し、このシナリオではサポートする立場でいいんじゃないかという結論を出します。それは一つの選択だと思うし感心させられました。

最後の千倉紗絵ルートではシナリオライターの立場からエロゲの分析が行われていておもしろかったですね。TRPGや芝居をしている人にとってはおもしろい内容ではないかと。エロゲであろうがゲームです。意志決定を生じさせるような設定とは何か一つのわっかりやすい例を示してくれています。立ちえを役者と捉えるのもおもしろいし、カメラアングルの変化というのは確かにノベルゲームの長所かもなぁ。恋愛部分はあんまり見るべきところがないかも。

まとめ

エロゲの製作現場を舞台にすることで、非常にヲタの僕らが感情移入しやすくなっているゲームです。演出、音楽などのセンスが良く引き込まれる楽しい作品でした。