さよなら妖精 米澤穂信

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

日常のミステリが演出する素晴らしい出会いと別れの物語。

うーむ、リトバスクドリャフカ・シナリオはこの作品へのオマージュなのだろうか。これを読むとあれのダメさがまた引き立つなぁ…。まぁあんまりネガティブなことを言ってもしょうがないし、本作を褒めることにしましょう。

僕は夏期限定トロピカルパフェ事件を読んで、米澤穂信のファンになりまして、この作品へと遡ってみました*1
本作は、ユーゴスラビアから日本にきた”マーヤ”と彼女を迎えた高校生たちの話です。前半はほほえましくて、雑学的におもしろいお話です。マーヤは日本の文化などを勉強しにきているのですが、マーヤが気になった日本の慣習に関する素朴な疑問に日本の高校生たちが頭をひねりながら答えます。

そして後半では、ユーゴスラビアに帰ってしまった彼女の居場所を、今までのマーヤの言動を振り返りながら推理します。

前半にしろ後半にしろ、謎解きが楽しい”日常のミステリ”ものでしたね。夏期限定トロピカルパフェ事件でも述べましたが、この著者のミステリはガジェットに留まらないのがすばらしいところです。ミステリが主人公たちの気持ちの揺れ動きとからみあっていて、物語の中にすごくうまく融合しています。

謎解き自体も柔軟な発想で書かれていて、ミステリがおちいりがちな玄人的な読み物という印象を覆すような爽快なお話です。

以前僕はリトバスクドリャフカシナリオの問題点を記事にしましたが*2、本作ではまさにそこが描かれていて、僕は非常に満足です。きなくさい地域から大義をもって日本に来た女の子と、日本でのうのうと暮らしていた高校生では、認識が全然つりあわず、当然悩むべきところでしょう。

そして、そうやって平和に暮らして来た男の問題解決能力なんて、やはりたかがしれています。でも、その無力の上で何を思うのかってそういう話じゃなきゃいけません。この描写には僕はほんとに満足でしたよ。

この本は特にクドリャフカのシナリオに不満が残った人に読んで欲しいですねw。ミステリという印象も捨ててもらってけっこうです。すがすがしいボーイミーツガールで、ちょっぴり悲しいお話です。