"文学少女”と慟哭の巡礼者 野村美月, 竹岡美穂

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

なんておもしろいラノベなんだ。不覚にも感動しちゃいます。

本編の感想に入る前に、ちょっと雑感を。

実は先週末の三連休に僕は旅行に行っていました。移動時間が多い旅だったので文学少女の2、3、4巻を読み終わってもまだ足りないくらいの時間がありました。そこで当然5巻(本巻)が欲しくなったわけですが、これが全然売っていません。まずファミ通文庫を置いている書店が少なかったですし、大きな書店でも文学少女は売り切れていました。東京では考えられない事態ですね。地方の書店事情の苦しさを、いまさらながら知ってしまいましたよ。

さて、東京に帰ると駅中の本屋でさえ文学少女が売ってます。家に帰るまえに買ってやっと文学少女の最新刊までたどり着きました。

それでは感想に入ります。本作では今まで張ってきた伏線が回収され、ついに美羽と心葉が再会を果たします。クライマックスですね。そして、元ネタは宮沢賢治の”銀河鉄道の夜”です。この最強の布陣で卑怯なまでに良くできた作品でした。泣きこそしませんでしたが、感動的でしたよ。

とはいえ、僕は実は銀河鉄道の夜をまともに読んだことがありません*1。なぜ原作を知らないのにこんなにも感動できるのでしょう。実は、僕はここでのジョバンニとカムパネルラってヘッセの”車輪の下”のハンスとハイルナーに似てるなぁと思いながら読んでいました。生真面目だけどすこし愚鈍な主人公と、ハイセンスな友人のパターンです。車輪の下は、高校時代に読みました。いい時期に出会えたせいか感動した覚えがあります。もう話の内容はあんまり思い出せないし、今検索してあらすじを読みなおしてみるとハンスたちはジョバンニたちとはずいぶん違うなぁと思いましたけど。

まぁ、そういう文学を読んでるか読んでないかは、とりあえずどうでもいいことです。このジョバンニとカムパネルラの関係って誰にでも実に覚えがあるのではないかと思います。賢かったり、感性が素晴らしかったりする友人に憧れて、一時期は一緒に遊び、そして意図せず別れた経験はありませんか。本作を読むことで、そういう記憶を呼び起こされ、感情をゆさぶられました。

個人的な体験をなしにしても、銀河鉄道の夜という幻想的で綺麗な舞台も素晴らしいし、物語によくからんだミステリ的な要素には舌を巻くし、登場人物のある種中二病的な思い込みにも、深く共感できました。まさに傑作。今まで文学少女を読んできて良かったと思わせてもらえる一冊でした。

文学少女シリーズはこれで終わりかなぁと思っていましたが、まだ謎の先輩・天野遠子の話が残っているようです。次の一冊も期待しています。

*1:わりと短いので、まだ読んでいないかたは、青空文庫から読んでみるといいでしょう。僕も今読んでみましたが、いい話です。