クドリャフカ シナリオを三つの視点から

鍵っ子ブログ様のおかげで大量にPVをもらいましたし、コメントもつきましたので、またリトバスネタです。クドリャフカ編の話ですが、最後まで遊んでいることを前提としていますので、ネタバレには気をつけてくださいませ。


さて、クドリャフカはキャラクターは非常に愛い奴なのですが、シナリオがちょっと意味不明です。いくらシナリオ考察を書いたところで、あのシナリオを褒める気にはならないのですが、どこが納得いかないのかを納得したいので考察するかたちになります。

今回僕は、クドリャフカシナリオを三つの視点から見ることにします。

  1. クド視点―後悔の解消
  2. 理樹視点―成長と不能
  3. 全体視点―共同体と自己犠牲

クド視点―後悔の解消

みなさん、一つ目の視点の話はよくされていますね。せっかくなので僕のブログへ投稿されたコメントを引用しましょう。

クドは現実の修学旅行前に両親の爆死を知っていました。
遺品だけを受け取り会う約束を果たせなかったのです。
それを悔いて忘れた状態で学園生活していますが
ある切っ掛けで自身の業を思い出してしまいます。
リトバス日記2日目 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込むのコメント欄から

その約束を果たせなかった心残りをシナリオ中で果たすわけですね。

この視点すら全体をクリアしたり、バッドエンド編をみなくては得られないのでクドシナリオは意味不明であるという第一印象になることが多いのかと。リトバスを最後まで遊び、この視点からお話をみると一応はちゃんと話が収まっています。

理樹視点―成長と不能

続いて理樹視点です。リトバスの個別ルートは全体ルートの縮図になっていることを、指摘する記事も書きましたが*1、このシナリオが全体のテーマである”成長”をどう補助しているのかをみていきます。

まず、クドが本国に帰るのを応援するしないの選択では、より大きな悲劇の回避のためにクドとの楽しい生活をすてられるか否かを問われます。ここはもろに成長というテーマがあらわれますね。

つづいて、クドが本国で酷い目にあっているのに、理樹が何もしてあげられない状態が描写されますが、これは続く鈴シナリオでも繰り返される構図です。クドのほうが鈴より酷い目にあってますけどね。key作品としてはAirにも出てくる不能性ってやつですね。この不能性も全体シナリオの縮図としてクドシナリオに登場します。

全体視点―共同体と自己犠牲

最後、この視点の消化がいまいちなところが、クドシナリオの弱点だと僕は思っています。この視点について参考になる感想も挙げておきます。

最初のものはクドリャフカの名前が、いかに犠牲という概念を彷彿とさせるものかについてです。
二つ目の記事は本記事と同じ観点で、国家と個人という語りえない関係性をただ語りえないといったのがクドリャフカシナリオだという見解をだしています。
最後のやつは自分のブログですが、共同体に対する信念のあるクドリャフカの行動を共同体意識すら希薄な理樹が理解できるはずがないという感想を稚拙ながら述べています。

共同体のために自己を犠牲にすることというのは、少々古い成長のモデルです。例えば成人のための儀式があり、成立するような時代のものです。徴兵制をしいている国ではまだ成立するかもしれません。また、桃太郎とかすごく古典的な話ではまだよく出てきますし、ヒロイックなRPGでもよくありますね。現在では戦争の反省から、このように共同体のための自己犠牲を美化する動きは批判されるようになっています*2

今回のクドの場合はさすがに、一つの共同体のために自己を犠牲にするのではなく、二つの集団の仲を取り持つために、自己を犠牲にする構図になっています。それは途中ででてくる蝙蝠のおとぎ話でも明らかですね。大塚英志は人身御供論の中で、強要されずとも共同体のために自らを犠牲にするという発想は”王”の発想だと述べましたが*3、このように二つの共同体の間に立とうというのは”聖人”の発想とでもいいましょうか。まぁなかなかに立派な心がけなんですね。

しかし痛ましい発想ではあるわけで、クドは自罰的です*4。その自罰的で、自己犠牲を良しとするクドに対して、理樹がどういう主張をするのかに、共同体と自己犠牲というものに対するライターの主張が表れるはずなのですが、ここがいまいちはっきりしません。

単にこんな結末は嫌だという稚拙な思いを奇跡のかたちにしてしまいます。

なぜ、僕がこの結末が気に入らないのか、もう少し述べます。このクドシナリオを泣いた赤鬼*5として捉えている方も多いですよね。クドシナリオではこの赤鬼が青鬼を助けるという風にラストを変更してあると考えればいいのですが、”青鬼と比べて、なんの努力も我慢もしてない赤鬼が、どうして思慮深い青鬼を助けることができるのか”という不自然さからくるものです。ここにご都合を感じてしまいます。

ライターの共同体と自己犠牲に関する考察が甘く*6、テーマが稚拙なのではないかというのが僕の結論です。

*1:図式で理解する!〜リトルバスターズ感想&考察のまとめ〜 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む

*2:例えばグスコーブドリの伝記 - Wikipedia

*3:Fateのセイバーをイメージしてください

*4:このあたりもFateのセイバーと比べると話が分かりやすいかも

*5:‹ƒ‚¢‚½Ô‹S

*6:といっても難しいテーマなのは分かります。