腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 本谷有希子

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)

笑える悲劇。

本谷有希子(もとやゆきこ)”からリンク先をたどってもらえれば分かりますが、非常におもしろい経歴の方です。

庵野秀明監督のアニメ「彼氏彼女の事情」では沢田亜弥役の 声優として参加”とかありますね。
その後劇団を立ち上げ、劇団と小説の二足ワラジで活躍。小説のほうも今や三島賞芥川賞の候補になる人です。

サブカル的なバックグラウンド(って言っていいのかなぁ。一応声優だったわけだけど)から、一般進出という方向では桜庭一樹の先を行く方ですね。

ちなみに本書は、2005年に単行本として出た本を、映画化にともない文庫化したものです。キャストはサトエリ佐津川愛美永作博美永瀬正敏ですね。→映画公式サイト

僕がこの方のことを始めて認識したのは三島賞の選評でしょうか。この方の”生きてるだけで、愛。”は第135回芥川賞候補作であり、第二十回三島賞候補作でもあります。女性のエキセントリックな生き方が描かれているという話で、そのときはあまり惹かれませんでしたが、著者をはてなで検索すると先ほど述べたように彼氏彼女の事情との関わりなんかがでてきて驚きました。 ぜひ読まなきゃと思っていたので、文庫版の本書を購入した次第です。ちなみの本作も第十八回三島賞の候補作ですね。

さて、そろそろ本作の感想に移らせていただきます。といってもこういう現代小説をいつものようにテーマ分析したりするのは僕には難しいですね。気楽な感じにいきましょうか。

本書の特徴はやはり狂ったように見える人ですね。姉・澄伽、妹・清深、兄・宍道、兄の嫁・待子がそろいもそろっておかしいです。しかし、おかしいながらに読んでいくとなんでそんな行動に出るのかわかってきて納得できたりもします。劇作家なせいか”何を描写する必要があり、何を描写する必要がないのか”の判断がうまく、非常に読みやすい本なのですが、いっぽう小説的な企みも凝っていて、そこを読んだ時点では意味不明な伏線を、あとできれいに回収するきちんとした構図を構成しています。

本書の内容は傍から見れば”悲劇”としか言いようがなく、”もうオワタ”とか言いたくなりますが、その悲劇がたまらなく楽しい。どん底の楽しさといったらいいのか、もう笑うしかありません。そんな不思議なおかしさを楽しめた一冊でした。200ページくらいで短いですし、オススメです。