神様のパズル 機本伸司

神様のパズル (ハルキ文庫)

神様のパズル (ハルキ文庫)

う〜む、カヴァーをつけて読んでいたから気づかなかったけど、こんな表紙だったのか…。これはラノベの皮を被ったSFですね…。表紙ほどラノベっぽくはないので気をつけましょう。まぁラノベの皮は被れるだけのラノベ分はありますけどね。

以降紅茶さんが何度も何度もおもしろいと薦めるので読んでみました。

この小説は第三回小松左京賞を受賞している上、映画化もするそうです。なかなか骨太な作品なのですよ。

僕なりの紹介文を書きましょう。

オリジナリティ不足に悩む秀才・穂瑞沙羅華と就活も卒論もおぼつかないおちこぼれ・綿貫基一のコンビが無謀にも宇宙創生に挑む!

”宇宙ってどうやってできたの?”そんな疑問を抱いたあなたは読むしかない、正統派SF青春小説。

こういったところでしょうかね。

ちょっと小難しいところがあるのですが、その部分は「ふ〜ん」と思いながら読み飛ばしてもらえればけっこうです。人が知りたいと思う対象を堂々と描ききっていて、非常に味わい深い名作だと思いました。

あとはネタバレ感想です。


僕は理工学部を卒業していまして、一応基礎的な物理学のことは勉強したことがあります。最初のほうで言われている物理学講座はほとんど正しいと思います。なかなかよく書けてるなぁと感心しながら読み進めて生きました。

穂瑞が天才ではなく、独創力不足に悩む秀才として書かれているところも、なかなかリアリティがあってよかったですね。物語の前半で彼女は人が考え付いたところまでは答えられますが、自分なりの考えや見方を打ち出せません。天才に共感することは難しいですが、努力家の人は秀才には感情移入できますよね。このあたり彼女を天才として描かなかったのは良かったです。

中盤は少々不満がありました。まずTOE(Theory of Everything)の中身が作者の想像力の限界を超えていてうまく説明できていませんね。ここまでそういう理論をちゃんとしてきたのに、ちょっと拍子抜けします。
また、発想もあんまり新しさを感じませんでした。あんまり突拍子もないこと…例えば10次元とか言い出すと意味がわからなくなるってのいうのは分かるんですけど、現存の理論のほうが作者の想像力に勝っている状況はフィクションとして問題ではないでしょうか。

もうすこし後のスピンとか渦とか言っているところは多少意味がわかります。しかし、どうせなら前半で出てきた問を伏線として生かして欲しかったですね。逆2乗則の話を持ち出したりすれば良かったのに…。

まぁ細かいことをいろいろ述べましたけど、要するに前半の伏線が生かしきれてないんじゃないかと思った次第です。

後半はなぜわれわれは生きているのかなど、哲学的な問題に中心課題がシフトしていきます。ここから先はまた楽しめました。物語もクライマックスでして、非常によく動きます。こうした哲学的な問いに対して、主人公が出す保障論に僕はあまり説得力を感じませんでした。要するに物事の物理的じゃない側面も重視しましょうねってことですよね。ものすごい普通なことを言っているだけのような…。”保証”にもう少し肯定的な意味を与えられたらいいと思うんですけどねぇ…。

でもまぁいろんなことを考えさせるいい小説でしたよ。物語りもおもしろかったし主人公にも穂瑞にも感情移入できました。