イノセントワールド 桜井亜美
- 作者: 桜井亜美
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 1997/04/01
- メディア: 文庫
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うわっ化粧くさい小説っ!
僕の第一印象はそうでしたが、この印象は徐々に打ち砕かれることになります。
そもそもなんでこの小説を読もうと思ったかというとですね、実は今乙一と桜井亜美がコラボレートして”東京小説”という映像イベントを行っているんですよね。
乙一のファンとして行こうかと思ったんですが、そのまえに桜井亜美について予習しておこうと思いまして読み始めました。東京小説の話はまた別の機会にするとして、感想を続けましょう。
この本で扱われるトピックを箇条書きにしてみます。
- 近親相姦
- 少女売春
- ドラッグ
- レイプ
- 精子提供
エトセトラ…エトセトラ…まぁインモラルなもののオンパレードですね。最初はただただこれを並べただけの小説で、暴力とセックスですか、はいはいわろすわろすと思っていたら後半、それだけではないものが出てきて驚きます。
それはなんと言ったらいいか、宮台真司の解説を参考にすると”世界との関わり方”への重要な決断と期待といえるものが含まれるところがこの小説をただのアホ小説ではなくしています。非常に化粧くさい、おんなおんなした小説で、男性には読みにくいのではないかと思うのですが、我慢して読み進めていけばきっといいことがありますよ。
あと追加蜷川実花の装丁はけっこういいです。原色って生きるちからが沸いてくる感じがします。
以下はネタバレ感想。
上にも書いたとおり、最初のほうは、ほんとに女女しててきつかったですね。なんか携帯小説によくありそうな低俗さで、体を売る自分を冷笑する自分…みたいなノリです。
知恵遅れである自分の兄と近親相姦するシーンを見て思ったのですが、おおっこれは逆ギャルーゲーじゃん?と。
まぁ知恵遅れ…といって差し支えない少女に癒されるみたいな話あるじゃないですか、知恵遅れということに純粋さとかそういったものを幻想しているんですね。これは気持ち悪い。逆をやられてみるとギャルゲーを嫌う女性の気持ちがよくわかるなぁ…と思いました。
まぁそんな”性別を逆にしたギャルゲー”のように読みすすめていきました。
でも、主人公が妊娠してしまったとき、全くもって頼りない兄をみて、自分がそういう幻想に癒され続けてきたってことに気づいてしまうんですよね。このあたりから、僕はこの小説を活目して見るようになります。
最後のトランシーバーの周波数を合わせる比喩が見事で、世界中に、誰かに向けてでもなく発信されたメッセージがそれを求める人に受信される。誰かに向けてではなく発信されたメッセージは実はその求める人に伝えたくて発信されたメッセージとなる。血のつながりとかではなく、主人公とNo.307がお互いに会いたいと思ったこと、それが世界に何か期待しようという意思の現れなんだっていうこの発言には閉塞感あふれる現代を生きるうえで非常にポジティブなメッセージを発信していると思いました。
解説で宮台真司が
「世界の不受容」への確信犯ぶりを一層深めたところで語は終わる。
って書いているけど、なんか納得いかないものがありますね。
世界っていうのが何かってことだと思うんですけど、少なくとも生まれてくる赤ん坊に対する期待があって、円環が開かれたってことは世界を受容していくってことだと僕は読んだんですけど…どうもよく分かりませんね。
僕がここで言っている世界っていうのは自分以外のものすべてといった意味です。宮台真司の言っている世界っていうのは、自分が受け入れられないもの全て?…のような。
宮台真司が言っているのはNo.307のような円環と主人公の円環が結びついて確かに主人公の円環は開かれる。でも世界に対しては閉じたまま。そういった意味でしょうね。
でも、僕が言っているのはNO.307の円環は自分ではないんだから世界の一部だろうとそういう違いでしょうか。
No.307との結びつきのあとは、自分の赤ん坊との結びつきもあるだろうし、他にも結びつきはあるかもしれない。その期待感は世界を受容していると僕は表現したいですけどね。