脳はなにかと言い訳する 池谷裕二

脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?

脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?

著者は去年までコロンビア大学の研究員です*1。僕はこの人の著作が好きで、今までも何作か読んできています。著者は進展の速い脳科学の分野を素人にも分かりやすく教えてくれるのですが、そのどれもが今まで僕らが直感的に思っていたことに反することなので、驚きながら次へ次へと読み進めたくなります。

この本では脳はなにかと○○するという形で脳の機能を説明していきます。表題になっている”脳はなにかと言い訳する”とは、人が何かを選択するとき、理由があって選択するのではなく、選択したあと、その理由を考える(この選択は正しかったという言い訳を探しがちである)という逆転現象を説明する章のタイトルです。

僕は中高生の頃デカルトを勉強したときから、人間には自由意志がほんとにあるのかどうか疑問でした。僕はこの問題けっこう好きで、前の著作の感想でも触れています。最近ではこの問題への理解がもっと進んでいるらしく、この本には本質的で意外なことが述べられています。脳でも”意識”をつかさどるような部分や運動をつかさどる部分などいろいろな部分があります。この本によると意識の部分が活動する前に、運動分野が準備を始めているらしいです。つまり体を動かそうという脳の働きが最初にあって、それを脳が認識するという順番になっているらしいです。なんと人間に自由意志はないらしい!
この議論はそこで終わりではありません。人間には”自由意志”はないけれど”自由否定”はあるらしいのです。つまり脳が”あっ俺手を動かそうとしている”と感知したら、それをとめることはできるらしいんですよね。こんなこと、昔の哲学者は考えもしなかったことだと思います。
まぁ今度は自由否定がほんとに自由なのか、意識ってのは何なのかという議論になってしまいますけど、脳科学的な定義をして(意識っていうのは意識をつかさどる分野で行われる脳活動(なんたるトートロジー!))しまえば、その上で人間の自由意志の問題は解決ですね。
おもしろいなぁ。科学万歳です。


この本には他にも”記憶・忘却”、”集中力・やる気”など、現代人が知りたいことが分かりやすく書いてあり、非常にお勧めです。ちまたで売れてる”○○脳を…”とかいう本もまったく読む価値がないとは思いませんが、まず基礎としてこちらを読んでからのほうがいいと思いますよ。関連する前の著作達もそれぞれに特色と面白さがありますので、古いからといって避けることもないと思います。”海馬”が2005年に復刊しているのも、内容が古びていない証拠でしょう。