ファントム再考

ファントム

ファントム

全然読めなくて一度は手放したファントム*1ですが、紅茶檸檬さん(id:koutyalemon)のブログ、TRPGのススメ?(6/21日)を読みまして、対立のの軸が理解できました。


嫌オタク流風に言うと(っていっても立ち読み程度にしか読んでないけど)高偏差値オタク、紅茶檸檬さん風に言うとハイエンドなオタクって奴に僕はどうも属しているいるようですね。
それに対してこの本は嫌オタク流風に言うと低偏差値オタク、紅茶檸檬さん風に言うと美少女主義なオタク本なのですね。


どうりで自分のことと思って読んでも実感が湧かないわけです。これはむしろ異文化の本なので共感しようとするより、理解しようと思って読まなければならないのでした。

この本は

ライトノベルの文法を踏襲しつつ、大人の鑑賞にも耐えうる新しい文学運動としてのライトヘビーノベルを市場に根付かせることこそが『ファントム』の最大の目標となります。(刊行の言葉から引用)

という意図のもと書かれているそうです。僕は”大人の”っていうのに違和感を覚えました。以下の感想はそのことを中心に書いてあります。


以下全部読んだわけではないのですが、ちょこちょこと読んだので感想を書きます。


既存のライトノベルとしては撲殺天使ドクロちゃん*2が近い分野だと思いました。一つの傾向としてということでこの本の全部の作品にあてはまるわけではないですが、普通のライトノベルとの違いは主人公が本当にオタクで、嫌なところも含めて等身大って言えば等身大ですね。それでギャルゲーみたいに女の子がでてくるわけですけど、そのまま結ばれてハッピーエンドっていうことではなく、自己満足的な自分は幸せだけど…人からみれば不幸に見えるとかそういうエンドにおちついたりします。


この無条件なハッピーエンドでないところが”大人の鑑賞に耐えうる”だとしたら、そもそもライトノベルを舐めているんじゃないかと思います。いまいちどこが新しいのかが理解できません。わざわざライトヘビーノベルとか言わなくてもいいんじゃないかなぁ。例えば谷川流の絶望系閉じられた世界*3とかありますよね。雑誌の刊行という意味ではファウストと比較してしまうのですが、ファウストvol. 1を読んだときほど目新しさはありませんでした。そしてこのような微妙なアンハッピーを子供が読んだらつまらないんでしょうか。微妙なところですが、中高生くらいの若い人こそむしろ喜びそうでもあります。今回の山本弘の短編のような血とか殺人とかそういうのこそ若者が好むところのはずですよ。


あとは滝本竜彦*4的な二次元とか脳内とかそういう話とも親和性があります。でも恋愛資本主義から解脱するために二次元が必要とか言われてもなぁ。少なくとも僕のまわりのオタクの言い分は『人との恋愛とギャルゲーは別腹!』ってことで、二者択一を迫るようなものではなかったし、そこを二者択一にすること自体が恋愛資本主義にとらわれすぎてる気がします。


どうしてもここで言われている大人っていうのがピント来ないんですよね。”大人”ってことにもう少しこだわっていくと、大人っていうのは自分でお金を稼ぐ人とか稼がなくてはいけない立場の人なのではないかと思います。(成人式ってそんなに実感ないし)でも、お金を稼ぐってそんなに簡単じゃないですよね。お金を稼がなきゃいけないって状況では恋愛だなんだ言う前にまず生活をきちんとしないと…。税金とか年金とかうざいなぁとか、上司が自分のことを認めてくれるか否かとかそういうのをライトノベルの文法で書けばそれがライトヘビーノベルなんじゃないかと思います。クラナドの方向なんていいんじゃないでしょうか。
あと、物語ではないですがこのなかではあかほりさとるが小説家として生きていくことの難しさを語っています。短いですけどこれはおもしろいですね。内容よりもあかほりさとるが語っていること自体がですけど。


大人とか子供とか言い出さず、典型的なライトノベルとちょっとひねったライトノベルを分割しましょうという話ならまだ分かります。ただ、同じライトノベルのくくりでも文庫によってそれなりに特色や年齢層もずれていると思いますし、今のところそんなに混乱も感じないので、消費者としてはそこまで必要性のある話だとも思いません。生産者の立場に立った場合、売上がどう変わるのかは知識が無いためコメントしようがないですね。


まとめます。
この議論はそもそも大人になるとライトノベルから離れるっていう前提での話ですよね。
そこがまず本当かどうか疑問ですし、もし離れるとしたら何が原因なのか、その原因の追求もまたはっきりしないまま勢いのみでやってみた本だと思いました。
この本では中途半端にリアリティやエロティシズムを加える方向に話が進んでいますが、僕は作者の言いたいことを盛り込んだり、質の高いライトノベルを生産するほうが効果的なんじゃないかという意見です。
主人公の感情を複雑にするってのはいいことだと思うのですが、単に主人公の状況を酷いものにしたり、劣等感たっぷりの台詞吐かせるだけっていうのはいただけません。なんで金払ってまで他人の恨み節を聞かねばならんのか!初めは共感できたとしてもそんなカタルシスのないものすぐ聞き飽きます。
それにそもそも恋愛を中心テーマに置いて、人を感動させるのって、難しいと思います、例えば一般小説にしても江国香織とかって雰囲気はいいけどあんまり心に残らない気がしませんか。
もっと家族とかをテーマにしてもいいんじゃないでしょうか。僕は親が倒れたらどうしようとか不安でしょうがないです。今はそういう兆候はないですけど、5年後同じことが言えたらかなりラッキーなんじゃないかなぁ。
美少女主義かつ大人のためのライトノベルっていうのは難しいものですね。


ここまでが意見で、以降は提案となります。
美少女主義かつ大人のためのライトノベルっていうのは難しい…といっても難しいことを考えるのは楽しいわけです。僕ならどうするかを考えてみます。
縛りは

  • 恋愛ものであること
  • 大人のためのものであること
  • ライトノベルの文法を踏襲していること

ですね。
僕が思いついたのは主人公をしぶくしてみる方向性です。
終わりのクロニクル*5の大城至とザインフラウみたいな話いかがでしょうか。
恋愛…といいがたいところがいい味出してると思うのですが。