進化しすぎた脳 池谷裕二

進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線

進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線


これはアメリカの高校生に脳科学者の著者がした簡単かつ本質的な講義の講義録です。


タイトルの進化しすぎたというのは体の進化に比べて脳の進化のほうが
進んでいて今のままの脳の構造でもより複雑な体(例えば手が増えるとか)を
取り扱えるといった意味です。


僕はずっと前から人間の自由意志というものに懐疑的でしたので
そのあたりの話題などが印象に残りました。
意識を語る上では脳をもっと部分わけしなくてはならなくて
もし意識が高度な判断をしていると思われる前頭葉で生まれているとしたら
それに上る前の偏桃体などでの処理は意識以前のものということになる。
人間の本能的な行動は前頭葉に来る前に決まってしまうらしいので
意識が担当している行動の自由は制限されたものになっています。
感情の話なども聞いていると意識というのは自分の行動に対する解釈、
もっと簡単に言えば自分の行動を今までの自分の行動と比べている
ところが意識なんじゃないかなぁと思いました。
(これは本に書いてあることでなく僕が思ったことです。)


また少しですがウェルニッケ失語症の話が少し載っていて
これによると言語と抽象的な思考にはやはり関係があるそうです。
はっきりと結論を出すことはまだできませんが
語りえないものには沈黙しなければならないという
ウィトゲンシュタインの言葉の科学的な根拠とも言えるんじゃないかと思います。


他には、単純な行列でインプットからアウトプットを推測する
行列を使った数理モデルにも心惹かれました。
ニューロンの行動は確かに簡単に言えばそういうことなのでしょう。
もう少し複雑な振る舞いもちょっと考えればすぐモデルかできると思います。
でもその結果を解釈するのが難しそうですね。
コンピュータ資源が足りなくてシミュレーションできないというのは他の科学分野でもよくあります。


こういった素人が知りたい疑問に果敢にチャレンジしていてしかも分かりやすい。
大変いい本だと思いました。

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池谷裕二の本
海馬
http://d.hatena.ne.jp/accelerator/20050813