ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! 田尾典丈, 有河サトル

ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! (ファミ通文庫)

ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! (ファミ通文庫)

ラノベの感想サイトで話題になっていた(ネタバレを避けるためエントリーは読んでないですが)ので読んでみました。

”ギャルゲーの世界で起こっているようなことが現実になったらどうなる?”というのが本書のアイデアなのですが、大変おもしろかったです。僕が思うにギャルゲーは何個か大きな問題を抱えていますが、このアイデアがうまく生きて、ギャルゲーのつまらなさが解消されているように思います。

その問題は一つには”真面目に選択肢を選ぶとクリアーできない”というものです。ギャルゲーでは各ヒロインにストーカーのごとくべっとり張り付く選択肢をとらないとクリアーできないものが多くあるのですが、実際にそんなことをして他の友人との交友を絶つのは人として問題ありです。他のヒロインがあきらかに困っているのに、今攻略したいヒロインに手をかなさなければならないなど、ゲームとしてのオヤクソクだけで攻略方法が決まってしまい、恋愛シミュレーションとしての葛藤を置き去りにするというある意味本末転倒な状況になっています。

さらに重大な問題が、泣きゲーの絶頂を象徴するゲームKanonを遊んだゲーマ達から提起されました。ギャルゲーにおいてはヒロインが何らかのトラウマや問題を抱えており、主人公がそれを解決したり、解決する手伝いをするというフォーマットが良く取られますが、主人公があるヒロインを選択した場合、他のヒロインの問題は解決せず、放置されるのではないかという問題です。

このお話の主人公は”主人公が介入しないと死んでしまうヒロインをまず救って、恋愛はそれから”と考えるのですが、非常にまっとうな考えです。友人の生き死にのほうが恋愛よりよっぽど重要というのは良く分かります。こういった等身大の思考で選択肢を選ぶことは、主人公に感情移入するという点からしてもグッドですね。

先ほどKanonの話をしましたが、本書はKanonの良いオマージュにもなっていますね。制服やヒロイン達の立ち位置に類似点が見られます。ちょっと記憶が定かではないのですが、Kanonの幼馴染、名雪に励まされるシーンで恋愛ではなく友情に感動した覚えがあるのですが、今回の話でもそういったシーンがあり、昔懐かしい思いにかられました。

少々不思議に、ミスマッチに思ったことは絵です。この絵で言うところの左の子が幼馴染で右側の子が高嶺の花的な立ち位置の子なのですが、ベレー帽という記号はお嬢様を思わせますので高嶺の花的な子にこそ似合いそうなものです。また黒髪は表面的にはおとなしい子を表す記号で、活発だったり華やかだったりする子にはちょっと似つかわしくないものがあります。ヒロインの萌え記号が類型的でないのは、実はギャルゲ的な世界と現実世界にあるずれを印象づけるのに役に立ってるようにも思うのですが、これが作者の意図的なものなのかどうか僕には良く分かりません。意図的なものだとしたらそうとう周到だと思います。

ギャルゲ的世界ではオヤクソクが跋扈し、等身大の選択ができないという問題意識を見事に小説に昇華した見事な問題設定だと思います。ギャルゲが好きな人にこそ特にオススメですね。