ディスコ探偵水曜日 上下 舞城王太郎
久しぶりに舞城王太郎の本を読みました。僕が読んでなかったこともありますが、作品を発表してなかったみたいですね。本屋で久しぶりに見かけて懐かしかったのと、初音ミクのKEIがカバーデザインをしているのにも惹かれて読んでみました。
まずはネタバレなしで未読の方、今読んでいる方へ
書き出しは絶好調。1ページ丸々字で埋まっているのに全然読みにくくないんです。文体や会話に気が使ってあり、あっというまに引き込まれます。これぞ舞城だなぁと思いました。阿修羅ガールを思い出しますね。特に今回のヒロイン、梢ちゃんのしゃべりがむっちゃかわいい。KEIのイラストのイメージもあってむっちゃ萌えでしたよ。
でも上巻の中盤でちょいとダレてきます。本書のジャンルはミステリでありSFでもありといったところなのですが、上巻中盤での探偵の推理が非常にどうでも良くまどろっこしいので、読むのがきつかったです。正直なところ上巻の中盤は読み飛ばしちゃっていいんじゃないかと思いますw。上巻の終盤および下巻はまたおもしろくなるので、それまで我慢のしどころです。
まとめると、非常に舞城王太郎らしい本でファンにはオススメの一冊でした。でもファンじゃない人にオススメするには1000ページはちょっと長すぎですね。内容は面白いですし舞城王太郎のエッセンスがつまっていてるのでこの本で舞城に入門するのもいいかと思いますが、読み通すにはなかなか根気がいると思います。中盤であきらめず最後まで読めれば必ずや満足してもらえるはずですが。
以下はネタバレ感想です。
既読の方へ、ネタバレ感想
ではネタバレ感想いきます。
要するにこの本は村上春樹の世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドのオマージュだと思えば、系統立てて語りやすいのではないでしょうか。九十九十九も同じ路線ではありますが、今回はラストに関係性や広がりがあるのが新しいところといえそうです。広がりがあるのがなぜ新しいのかは無効なURLですを参考に。
ハードボイルドワンダーランドにしろ九十九十九にしろ、自分の頭の中に閉じこもる方向性の話で、それが時代ともあっていたかと思うのですが、最近はそういったものの考え方に対する批判も多いですね。今回は頭の中に話がとどまらず、世界そのものを相手にしているところが荒唐無稽でおもしろいところです。水星Cや小枝、それに探偵達との関係性も九十九十九に比べたら濃厚で、何度もくじけるディスコを助けたり、自分の頭で考えろと促したりします。
最近は僕も自分で定めていく価値観と他人との対話によって定められていく価値観のバランスに興味があり、そういう思想的な意味でもおもしろく読みました。
SF考証?
友人のネレさんが、理系の人がこの話を読んだ感想を聞きたいといっていたので、力不足ながらSF考証をしてみたいと思います。
今回の宇宙観は双子の宇宙で片方が膨張するのと同じ速度で収縮するものですが、なかなか面白いものだと思いました。よく分かりませんが一般相対論の範囲でそういう解はあってもよいと思います。実際どういう形になるのかはわかりませんけどw。まぁそもそも宇宙の体積を一定にする理論的必然はありませんし、特に優れたモデルだとは思いませんけど数学的にはおもしろいモデルかもしれません。
SFとしては、何か嘘をついたなら嘘をついたなりに世界観に一貫性があるのかどうか気になるところです。意識によって物理法則がゆがむというルール自体はよく聞くものですが、今回は空間構造と時間構造に関する変更しか許さないようです。これはこれで一貫性がありますね。
タイムパラドックスの回避の仕方は脆弱ではありましたが、失敗した未来の”意識”が過去の自分に影響を与えるというのは、ファンタジックには悪くないのではないかと思います。タイムスリップをありにしたうえでタイムパラドックスを起こさせないためには、タイムスリップこみで歴史は変わらないという立場をとらざるを得ません。タイムスリップの醍醐味は過去のやり直しなのに、この解釈では結局未来は決定論的に決められていて全然面白くありません。またパラレルワールドから過去に戻ることにすると、過去を変更しても救われない世界ができてしまいます。これもまたおもしろくない解釈です。今回の一度決まった過去を記録としては改竄できないが、個人的には違う経験をしうるというのは、物理法則としていまいちですが、タイムスリップしている本人達にとってはそれなりに意味のあることですし、決定論的ではない結果を生むこともあるという意味では悪くないと思います。