SWAN SONG Le.Chocolat 瀬戸口廉也

SWAN SONG 廉価版

SWAN SONG 廉価版

SWAN SONG終了。

久しぶりに心から面白いと言える18禁ノベルゲームを遊びました。ちょっとパッケージがエロいのはご勘弁を。

非常に鬱な展開なのに、ぜんぜん目が放せませんでしたね。本作は大地震で崩壊した都市でのサバイバルな生活が描かれますが、非日常だからこそ、人のむき出しの心があらわになります。そういった感情のぶつけ合いはフィクションの楽しみの一つです。

作者はこういった極限状態の人を描くのがうまいです。普通、気が狂うというのは論理が無くなっていくような気がしてしまいますが、今回の登場人物の鍬形拓馬のおかしくなり方は、自分に都合の良い論理を過剰に形成していく形で描かれています。鍬形拓馬の性格をよく現していて、僕はリアリティを感じました。

本作の形式も見所です。ギャルゲー・ノベルゲーというのは、一人称、主人公視点で書かれているものがほとんどです。これにはそれなりにわけがあります。こういったノベルゲームではエロさという基準の他に、”泣けるかどうか”が大きな評価軸となってきました。特に泣きゲーというカテゴリーができるほどです。人を泣かせるときに重要になってくるのは感情移入です。感情移入さえさせてしまえば、日常ではめったに起こらないようなかわいそうな出来事、つらい出来事、けなげな出来事を見せれば人は簡単に泣けてしまいます。やっと話がつながりますが、感情移入を促す形式としては一人称、主人公視点が優れているのです。こういったノベルゲームでは話している相手の立ち絵がでてきますが、漫画のように自分は立ち絵としては出てきません。これは僕らが会話をする時の視点に近く、錯覚を狙っています。同じように、一人称の文体というのは、まるで読み手が考えたように主人公の思考過程を追ってしまうので、外からみているより感情移入が促されます。

普通のノベルゲームの話が長くなってしまいましたが、本作の形式は一人称・多視点となっています。この形式では、Aさん視点から見たBさん像とBさん視点になったとき分かるBさん像の違いがプレイヤーの驚きに繋がります。巧妙なつくりですね。

本作は1週目と2週目で展開がけっこう違っていて、2週目はそれなりに希望を持てるエンディングなんだけど、1週目でもう満足してしまいました。エロゲでこんなことを思うのは初めてですが、美しいですね。醜さ、脆さ、強さ、優しさの物語が急に息を細め、静かで静謐な世界が現れてくるんです。

この静謐さの元が何なのかを語る言葉を持ちません。解釈を拒む作品ということもできるでしょう。

独自な感性で作られた美しい経験でした。