メタリアルフィクションから生じる英雄

TRPGにおいて、PLとPCの性格の違いのを問題にされることがよくあります。PCはそのゲームの世界観の中で英雄だけど、PLは現実において英雄ではない。だからお話内でも英雄的行為を行うのは無理があるとか、逆にPLは世界の危機に対してありとあらゆる対処ができる英雄であるとか。

これからRPG(特にCRPG アドベンチャーやノベルゲームなんかも含む)においてPC視点とPL視点を一致させる方法について述べていきますが、その中でPLはメタ視点があるから英雄なんだってのをもう一歩進めて、メタ視点を持っている人が英雄なんだって話をしたいと思います。

今日紹介するRPGにおいてPC視点とPL視点を一致させる方法は二つです。すなわち、PCからそのキャラの持つキャラクター視点を排除するという方法と、PCにプレイヤー的なメタ視点を付加する方法です。僕が注目したいのは後者の方法で、東浩紀的な言い方をするとメタリアルフィクションってやつですね*1

PCからキャラ視点を排除

ドラゴンクエストシリーズでは主人公がしゃべらないという特徴があります。ドラクエシリーズが出たときには、そんなに話題にはなりませんでしたが、主人公がよくしゃべるファイナルファンタジーシリーズとの比較において、主人公がしゃべるのがうざいという意見あり、ドラクエシリーズの良いところとしてよく挙げられます。PCがPLの思ってもないようなことをしゃべると、感情移入しにくいんでしょうね。

また別のアイデアとしてPCを記憶喪失にするというのもよく見かけます。記憶喪失にするとPLが知っていることとPCが知っていることをが同じになりますので、感情移入しやすくなります。

PCにメタ視点を付加

逆にPCにPLが持つようなメタ視点を持たせて感情移入を促すようなタイプのお話もあります。

PC視点とPL視点としてまず違うのは死生観です。PCの人生はお話中で一回死んだらおしまいですが、PLはセーブしたところからやり直すだけです。またマルチエンディングのゲームでは、一つのエンディングをみた後最初からやり直すことがありますが、あれもPCにとっては一度きりの人生、PLにとっては数ある人生の一つという構造があります。

一昔前の話になるかもしれませんが、ゲームをすると何か失敗をしてもリセットすればよいという感覚が身について良くないとかいう話がゲームを悪者にしたい論者から出されたことがありました。でも、逆に考えればゲームは山ほど失敗させることで、それを回避する方法を模索させるシミュレーターということもできます。逆に問題に対してありとあらゆる方法論を試してみる感性が育つというロジックも可能でしょう。

さて、PCにPL視点を持たせる技術の一つはループです。小説All you need is kill*2などのように死んだら少し前からやり直すってパターンもあれば*3、PCゲームのクロスチャンネルのように決まった期間を繰り返すタイプもあります*4 *5 *6

ちなみにループものを作る古典的なアイデアはタイムスリップです。そもそもタイムスリップもののテーマというのは、失敗した過去の改変であり*7、死んだら死なないようにやり直すというゲーム的な構造の古典的な表出といえます*8

少々珍しい例では、PC版”ひぐらしのなく頃に”において、前原圭一がプレイヤーは知っていて彼は知らないはずの竜宮レナの物語の結末を知り、その悲劇を回避するための努力を開始するというのもありました*9

この最後の例で顕著ですが、物語中の登場人物がその登場人物が持ちうる認識を超えた決断をする時こそ、英雄の誕生の瞬間なのではないでしょうか。

宗教的な話になっちゃって微妙なんですが、業(カルマ)ってありますね。輪廻転生するという世界認識の中で、良い行いをすれば次の人生では、良い位置からスタートするみたいな。キリスト教でもよい行いをすれば天国にいける的な話もありますね。英雄的名行動や信じられないほどの献身というのは、自分の一回の人生を相対化した宗教観や信念から生れてくるでしょう、

英雄とは作中の世界観における常識を覆す存在です。そういった常識を覆すにあたって、その一個のキャラクターの人生を相対化した視点(つまりプレイヤー視点)を利用するというのは理に叶ったことだと思います。

つまり、メタ視点が英雄を作るのです。

*1:批評は役に立つか - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込むの中でメタリアルフィクションについてもう少し詳しく説明してあります

*2:All you need is kill 桜坂洋 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む

*3:最近やった中ではスマガも。スマガ Nitro+ - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む

*4:花月十夜などファンディスク的なオムニバスものでよく見かけます

*5:最近アニメが話題になった涼宮ハルヒの憂鬱におけるエンドレスエイトもループものでしたね

*6:選択肢の組み合わせを実際にPLが試すタイプのループものとしては自転車創業のANNOSシリーズがおもしろいです。ロストカラーズ 自転車創業 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む そう、あたしたちはこんなにも理不尽な世界に生きているのだらよ 自転車創業 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む

*7:サマー/タイム/トラベラーでは登場人物たちが時間跳躍ものテーマについて語り合いますが、その結論がこれです。サマー/タイム/トラベラー 新城カズマ, 鶴田謙二 - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む

*8:最近では、にゃあさんがメタ視点をうまく使った遊びとしてタイムパトロールもののTRPGを提案しています。物語を作るTRPG - Try to Star -星に挑め!

*9:リセットによる結末の断絶を物語の一回性に回収するメカニズム - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む