物語工学論 新城カズマ

物語工学論

物語工学論

僕はTRPGでのシナリオ作成に役立てるため今までたくさんの物語創作のためのHOWTO本を読んできました*1。そろそろ本を読むのはもういいかなって思っているぐらいだったのですが、新城カズマ蓬莱学園の関係ということでTRPGへ応用しやすい創作論が書かれているかもしれないと思い読んでみました。その期待は概ね正しかったです。

本書の主張することは非常にシンプルで”物語とはだいたいキャラクターである”ということです。キャラクターといっても外見的な特徴ではなく、物語上の立ち位置的なものですので、わりと当たり前の主張だと思われます。本書はそのキャラクターのテンプレートをいくつか提供することで、そういったキャラクターが出てきたときのストーリー展開の暗算の仕方を教えてくれる本です。

そのテンプレートとは、さまよえる跛行者、塔の中の姫君、二つの顔をもつ男、武装戦闘美女。時空を越える恋人たち、あぶない賢者、造物主を滅ぼすもの、この7つです。詳しい説明をすると本書の価値が落ちてしまうのでしません。

このテンプレートはTRPGにおいて物語の定番の展開を押さえる意味で使えると思いますし、キャラクターの動機設定に用いるのもいいと思いました。

実作への応用

個人的には上の7つのテンプレートではちょっと少なく、このテンプレートから派生したものも考えると良いと思います。その提案なども含めて今流行っているキャラクターを例に考えてみます。

灼眼のシャナ

シャナは直感的には武装戦闘美少女を当てはめたいところなのですが、このテンプレートを使うほどには女性であることが自意識に上ってこないと思われます。シャナの場合二つの顔を持つ男をちょっと変更して、児童戦士というテンプレートを新たに当てはめても良いかもしれませんね。フレイムへイズのシャナと学生の平井ゆかりの間で揺れ動きますね。

坂井悠二とのセットで考えるなら時空を越える恋人達を当てはめたいところです。ここでおもしろいのは吉田一美との三角関係ですかね。悠二がシャナに寄れば逆に一美との障害が大きくなり、日常側によればシャナに対する障害大きくなる。これはおいしいですね。日常と非日常の三角関係とでも名づけたいテンプレートです。

坂井悠二に関しては一度殺されているんで、そこである意味人間としての日常を欠落させているわけです。これはさまよえる跛行者にふさわしいかなぁ。この欠落が回復するのか何かで補完するのかがドラマのクライマックスになるでしょう。

また、戦闘美少女の逆のテンプレートとして、”戦いを避けるオタク”というのも良く見るパターンです。坂井悠二に関してはそんなにオタクでもないのですが、似たパターンであるので参考までに。

さて主役級の二人はともかく、他の人物はどうでしょう。アラストールとか。新城カズマの分類ではアラストールの過剰な正義をもってあぶない賢者をあてはめるところなんでしょうが、アラストールはそんなにあぶなくないので、あんまりぴったりではない気がします。なぜアラストールが危なくないのかと言えば、先代の炎髪灼眼を失った反省からきているような気がします。この構造は、ハリーポッターダンブルドアなんかにも当てはまるかもしれませんね。

あぶない賢者は過去に失敗をしていると危なくない賢者になる法則があり、”反省する賢者”というテンプレートを考えるといいかなって思います。この人物は若者に助言や力を与える役周りになることが多そうですが、その場合は子離れできているのかとかが問題になりそうです。

マージョリー・ドーとシャナの関係に注目すると、時空を越える恋人達の派生として、”反発しあう好敵手”というのを考える必要があるかなぁと。これは互いに住む世界が違うがために、最初は反発するものの、後にお互いの生き方で躓いたときアドバイスしあえる仲になるという感じです。

涼宮ハルヒの憂鬱

ハルヒですが、とりあえずは塔の中の姫君でしょうかね。自分は特別でないという価値観にとらわれているわけです。しかしハルヒは実際にはすごい特別な人間なんですよね。だから単にそのことを教えればハルヒの心の問題は解決するんですが、そうすると世界のほうが問題になってしまう。塔から出るのを禁じ手にした上でこの塔からハルヒを助け出さなきゃいけないっていうのがこの涼宮ハルヒの憂鬱の難しいところですね。

とはいえ、実際には塔なんて気の持ち様にすぎないわけですから、ハルヒが特別な力を持たないありのままの自分の価値を信じられるようになるしか塔を壊す方法はありません。まぁキョンハルヒが互いの価値を認めあえばよいんだと思います。

自分の価値が信じられない姫というのは恋愛で解決しそうなネタなのでわりと簡単に使えそうですね。

とらドラ!

とりあえず竜児と大河のカップリングを考えるとすると、これはいきなり難儀ですw恋愛ものだというのに時空を越える恋人達が使えないパターンですね。この場合の恋愛の障害はお互いが別の人を好きになっているところにあります。恋愛物としてのとらドラはこの手の手法だと解析しづらいですねー。現在の物語論の限界なのかもしれません。この辺はとらドラみたいな話が量産できないってことにも関係していますね。漫画のピーチガールとかドラマのラブシャッフルとか、相手がいろいろ変わるタイプの恋愛ものというのは、『昔話の形態学』から派生した物語論では語れないような新テーマなのかもしれません。

とらドラ!は恋愛さえ離してしまえば、実は解析しやすい話でもあります。要するに母の不在から母との和解ってやつですね。ロールモデルとなるべく大人が青年期にいないため、ちょっとひねくれるんですが、何かを通して大人になり、大人の事情も分かり、母と和解するって感じです。母親を探す悪ガキみたいなテンプレートですかね。

自作テンプレートまとめ

元のテンプレートから派生させてみたものをまとめてみます。

児童戦士

児童と戦士という”二つの顔を持つ男”なのですが、武装戦闘美少女の美少女の部分を児童にしたと考えるほうがいいかもしれません。

自分の価値が信じられない姫

塔の中の姫君なのですが、閉じ込めているのが自分自身という特徴があります。

戦いを避けるオタク

武装戦闘美少女が女であるにもかかわらず戦う存在であるならば、戦いを避けるオタクとは男であるにも関わらず戦わない存在です。類型としては塔の中の姫君に近いものがあります。戦闘美少女に無理やり戦場に駆り出されて、覚悟を決めるというのが基本パターンですかね。

このテンプレートの場合、無理やり戦場に駆り出されているという事情があるため、このキャラクターの能動性に欠けます。一度逃げるチャンスを与え、それでも戦うという”契約と再契約”みたいな展開がよく用いられます*2

日常と非日常の三角関係

時空を越える恋人達を二重に用意する感じです。主人公がもともといた側を日常とするならば、日常側と非日常側、それぞれにヒロインを用意して主人公をひっぱりあう的な展開です。

反発しあう好敵手

物語の役割的には、時空を越える恋人達的なものなんですが、あんまり恋人じゃないケースについて。住んでいた世界の違いにより、最初は互いの価値観の違いによって喧嘩をするという感じです。

反省する賢者

あぶない賢者はなんらかの欲望をもって、世界にバランスではなく秩序を求めるような存在ですが、一度こっぴどく失敗すると反省して、穏健になります。

母親を探す悪ガキ

さまよえる跛行者の派生であり、造物主を亡ぼすものの反対みたいなテンプレートです。このテンプレートでは初期に造物主がおらず、どう大人になっていいか分からないんですね。それが大人になって、不在であった母親と再会し、母親を認めるというのが基本的な展開です。