TRPGに役立てる平田オリザ流演劇論

演劇入門 (講談社現代新書)

演劇入門 (講談社現代新書)

平田オリザは脚本家、演出家です。現代口語演劇の旗手で、表現教育(言いたいことをうまく相手に伝える姿勢や技術の教育)を推進しようとワークショップなど開いているようですね。

みなさんあまり気がついてないかもしれませんが、TRPGの文脈でも何度も引用されてきた人物です。今回は思想的なことは抜きにTRPGの技術論として役に立ちそうなことを紹介します。

彼の著書演劇入門は戯曲を書くためのhow to本で、特に台詞の書き方に特化して説明してあります。

説明的な台詞のリアルじゃなさ。

リアルな表現にはイメージ化するプロセスが必要となるそうです。例えばリンゴがあるということを説明する以下の2つの台詞では何が違うのでしょうか。

「このリンゴがおいしいなぁ」

男がなにかを手に取り「おっずっしりくるね」
女「真っ赤でぜんぜん青いとこないでしょ?」
男食べてみて「このリンゴおいしいなぁ」

前者ではいきなり答えを与えられているのに対し、後者ではイメージを作っていくプロセスがあります。この場合後者の最後に答えがでてくる形式のほうが観客は説明的ではなく自然に受け入れられるそうですよ。コツとしては台詞をリンゴという直接的な言葉からではなく、赤いとか丸いと間接的で遠いイメージから順番に並べて一緒にイメージを作っていくことが重要だそうです。

ちなみに、これには全く正反対の立場もありますから注意(2008-05-29 - GMブログ - game master)。演劇とTRPGは違うので、場合に応じてうまく使い分けてください。唐突なことを説明するときほど遠くから入ったほうがよさそうです。

セミパブリックな空間と時間

さて、次は台詞のやりとりがでてきやすく、観客の興味を引くための舞台づくりについて。3つの空間を考えてみましょう。

プライベート
家での家族の会話など。会話は弾むが、お互い知っていることは略してしまい話さないため、観客にとって意味が通る会話にならない。
パブリック
駅の往来など。会話自体が成立しない。
セミパブリック
プライベートとパブリックとの中間的な状態。プライベートな空間に外部から他者がきたような感じ。葬式やパーティなどイベントごとでパブリックな場所をセミパブリックにすることも有効。

ここではセミパブリック、つまりプライベートな空間に他者がくることで会話の意味を外に説明する必要ができることに注目してください。その説明を聞いて、プライベートの会話を観客も納得できるようになります。

TRPGの場合で例を挙げると、酒場が依頼人のプライベートな情報を他者であるPCに語るセミパブリックな空間となりますね。さっきあげたパーティや葬式に出席して、その家の問題を聞くなんてのにも使えます。

また、人物の語らせかたですが、自分で自分のことを語る自分騙りは自己紹介以外ではありえないですね。「俺はTokyo生まれヒップホップ育ち〜」とかいう機会はあまりないです。自分のことは自分が良く知っているはずなので語らなくてもいいはずの情報です。
よってある人物について語らせたければ、その人物を良く知る人物と良く知らない人物を用意する必要があります。

TRPGではPCは何であれ良く事情を知らない側の人物を演じることになりますので。何かに詳しいNPCを出せば事足りますね。逆にPCの情報を語らせたいときにはPCを良く知る人物(他のPCとか)にNPCが尋ねるのがいいかもしれませんね。

また、ちょっと変な応用かもしれませんが、リプレイで素人の人への説明のために、実際の素人を登場させるというテクニックが近いですね。

またあまりなれてないシステムをやるときに、その世界に来たばっかのPCをやると世界を説明する台詞が自然になることもこの応用です。

問題提起を序盤にし想像力をずっと誘導する

芝居ではこの話は何についての話なのか最初に説明し、そこに注意を向けることが重要だそうです。TRPGでも同じですね。今回予告の意味はこのへんにありそうです。事件の中心を用意している場合には今回予告をすると良さそう。

また、演劇では舞台や時間の制約から、全ての出来事を説明できず、省略する必要があるとのこと。TRPGでもシーンの省略は重要でしょう。パブリックなシーンは会話がないので積極的に切っていくべきですね。あと一人で情報収集するシーンを省略して、時間順では先に調べてあるんだけど情報交換しているシーンで判定するなんてよくやられます。

芝居では重要な人物は最初の1/4程度で出そろわなければならないそうです。中盤で新しい要素が加わりすぎるのは観客の想像を壊すとのこと。なるほど。

会話と対話

セミパブリックな場所・時間での対話が状況を観客に理解させるために重要なことはすでに述べました。
もうすこし対話の特徴を説明すると、意外なことに対話は実は冗長率が高いそうです。感嘆詞など意味のない単語を多くはさみ、コミュニケーションの細かい意図を反映するためとのこと。逆にプライベートな会話では言いたいことだけ言えばよいそうですね。登場人数が少ないシーンは本音を話すシーンです。

コンテクスト

うまい俳優の条件としてコンテクストを自在に広げられるというのがあるそうです。コンテクストとは日本語で言うと文脈のこと。誰しも自分の文脈を持っていて、例えば机という言葉で指し示されるものについてのイメージは誰でも持っていますが、ちゃぶ台を机にいれるかどうかなど人によって違いがあります。他人のコンテクストが完全にわかるようになるのは難しいですが、人のコンテクストがわかることは大事です。

PCを自然に演じるとはPCのコンテクストを手に入れることですね。

まとめ

演劇では演者は観客に向かってものを言うのではなく、他の演者に向かって発言するはずですが、他の演者に向けてした発言で観客に状況を分からせる必要があります。観客に自然に状況を分からせる台詞の構成の仕方やそういった台詞がでてきてもおかしない場所や時間について議論しました。

今回の話は現代口語演劇というスタイルに則っているので、演劇のスタンダードな話でもないし、TRPGでこのようにするのが正しいとも限らないことに注意した上でなら、けっこう使える概念が多いと思います。